研究紹介

継承語に関する研究について紹介しています。日本語に特化した研究以外にも、他の言語の研究なども紹介し、総合的に継承語の維持について考えています。他にも、継承語の研究に関する入門書なども紹介しています。

  • 子供をバイリンガルに育てるメリットとデメリット

    前学期に教えていたクラスで、アメリカで子供をバイリンガルに育てるメリットとデメリットをまとめるプロジェクトをしたので、それのまとめを日本語で書いておこうと思いました。バイリンガルのメリットとデメリットについて、科学的に実証されている、あるいは客観的に記載されている事実についてをまとめようというプロジェクトでしたが、研究で確立している事象だけを考えると、バイリンガルのメリットは非言語的な認知力についてのものが多く、デメリットは言語的なものが多かったのがおもしろかったです。 バイリンガルのメリット 言語に関するメタ知識(言語をコミュニケーションのシステムとして認知する知識)が高く、言語に対する反応がモノリンガルと異なる。例えば、”Which is more like CAP? CAN or HAT?”という質問があると、モノリンガルの英語話者は、音声的に近いCANを選ぶことが多いが、バイリンガル話者は、HATも意味的に近いと答える。 クリエイティビティーが高い。例えば、”Tell me all the things you could do with paperclips.”などという質問をされると、モノリンガルはありふれた答え(鍵を開けるとか)しか出せないが、バイリンガルはクリエイティビティーが高い返答(アクセサリーにするとか、キーホルダーにするとか)が出せる。 大人になってから、他の言語を習いやすい。これは、言語のメタ知識とも関係あるが、言語の仕組み(文法、第二言語の音声、音韻、言語の意味論など)を理解しているので、大人になってから自分のバイリンガル言語以外の言葉を学ぶ際に、習得が容易になる。 Communicative sensitivityが高い。Communicative sensitivity高い話者は、例えば、会話の際に、会話相手がコンテクストにないような話を始めたとしても、バイリンガルは会話相手の視点から会話を分析して会話の意味を探ることができる。 バイリンガル話者は、モノリンガル話者よりも認知症の発症が平均的に遅い。 Social mobilityが高くなる。複数言語をネイティブレベルで利用できると、交流関係や活動できる社会が広がり、国際的な仕事や生活が可能になる。 国際的な環境になくても、グローバライゼーションが進む21世紀では、それぞれの地方で国際的な知識を持つ人は重用される。最近では、地方の観光地などで中国語などの知識を持つ人が、観光者を増やすために必要になっているなど。 グローバライゼーションが進む21世紀で活躍する人材は、バイリンガル能力など国際的な感覚がある人材が必要。 国際的なバックグラウンドがある子供たち(両親が違う人種や文化を持つ子女など)にとっては、自分のルーツがある言語を知ることはアイデンティティーの確立の一部として必要。 バイリンガルのデメリット バイリンガルはモノリンガルよりもボキャブラリーが少ない。バイリンガルはそれぞれの言語(バイリンガル話者のメインの言語とサブの言語両方)でのボキャブラリーが、ネイティブ話者よりも少ない。例えば、アメリカでの英語-日本語の継承語話者だと、サブ言語である日本語のボキャブラリーが小さいのはよく知られているが、それだけでなく、継承語話者のメインの言語である英語のボキャブラリーのサイズも(同様の社会環境、教育レベルの)モノリンガルと比べると少ない傾向がある。特に、言語分類学的に離れている言語(英語-日本語バイリンガル)の場合は、ボキャブラリーの少なさは、言語分類学的に関係の深い言語(英語-フランス語バイリンガル)と比べると特に如実にあらわれる。 バイリンガル話者はモノリンガルよりも言語に関する認知テストで劣る(picture naming tasks, verbal fluency tasks, ...
  • 新時代海外移住者の日本語継承

    カルダー, 淑子. (2019). 新時代海外移住者の日本語継承: 日本語教育推進法案に対する署名運動から. In 喬. 宮島 et al. (Eds.), 開かれた移民社会へ. (pp. 234-241). Tokyo, Japan: 藤原書店. 「日本語教育推進法案」が2019年の国会で通過しましたが、その原案が公開された2018年から、日本語教育の推進の対象に、国内の移民者および在外(海外)の一時滞在者に限らず、海外での「日本にルーツを持って海外に永住する人」にも対象を広げようと活動を続けられているカルダー淑子先生の論文です。 「日本語教育推進法案」に関する運動に関しては、この論文が書かれてから国会通過まで紆余曲折があったのですが、この論文では深く触れられていません。主な内容は、「日本にルーツを持って海外に永住する人」に対する日本語教育の必要性について、北米だけでなく他の地域の特色なども考察して書かれています。また、海外で日本語教育を受けて日本語と現地語のバイリンガルとして活躍できる人材が、現在の日本社会や企業では良い意味でも悪い意味でも特別視されており、日本社会、企業がバイリンガル人材を活用できる場所を提供できているのかという疑問も投げかけらています。
  • 日本語の国語教育(学習指導要領)と継承語教育への子女と保護者の反応

    Doerr, N. M. & Lee, K. (2009). Contesting heritage: language, legitimacy, and schooling at a weekend Japanese-language school in the United States. Language and Education, ...
  • オレンジコースト学園の継承語カリキュラムへの移行過程

    Uriu, R. M. & Douglas, M. O. (2017). Crisis, Change, and Institutionalization: Adopting a New Curriculum at a Japanese Weekend School. In O. Kagan, ...
  • ニューヨークの日本語話者 (2015年時点)の地図での表示

    このブログポストでまとめた2015年のAmerican Community Surveyのデーターでニューヨーク市内で日本語を家庭言語として使う人の数を、地図にまとめてみました。PDFのものはここでダウンロードできます。
  • ニューヨークのクイーンズ区での日本語教育の需要

    クイーンズのForest Hillsで日本語プレイグループを行なっている「Queens児ぱんぐ􏰃」(https://queensjipang.wixsite.com/queensjipang)というところが、2019年の2-3月にかけてオンラインでのクイーンズ近郊での日本語教育需要調査(https://www.surveymonkey.com/r/V3JQHJX)を行いました。以前から、クイーンズは日本人家庭が多い割には日本語による教育機関が少ないと感じていたのですが、調査の結果を見ると、やはり需要度は高いようです。 回答数は134件で、いただいたデータを見た感じでの主な概要は以下の通りです。 回答者の住居は、Forest Hills or Rego Park (41%), Sunnyside or Woodside (15%), Astoria (13%), Long Island City (12%)とのことで、だいたい、Asian American FederationやCensusなど他の調査での日系人家庭の分布とだいたい一緒。Forest Hills or Rego Parkが弱化多い感じがするのは、おそらく「Queens児ぱんぐ􏰃」さんの活動地がForest Hillsのためかと思われる。 一般的に継承語の子女がよく行くであろうと思われている日本人補習校(公立、私立の土曜日学校)に行っているのはわずか8%。これは、回答者の多く (77%)が未就学児 ...
  • 北米の日系アメリカ人の歴史

    北米の日系アメリカ人の歴史についてのとても面白い本とウェブサイトを見つけたので、その紹介です。 日本語継承語話者は、いわゆる1.5世か2世の日系アメリカ人になるのですが、最近、継承語話者の人と話していて感じたのは、言語や文化に関しては知識がある継承語話者の人でも、歴史のことを聞くと、ある程度の日本の歴史と、西欧主観的なアメリカの歴史の知識があるものの、どちらも自分の歴史ではないという思いがある人が多いと感じました。いわゆる日系アメリカ人の歴史というのは、アメリカの学校ではあまり触れられず、また、1世である継承後話者の保護者の間でも知られていないので、日本語継承語話者に伝承されていかないのだと思います。 日本人はアジアの中でも比較的早くからアメリカに移住を始めた民族の一つです。1860年代にアメリカ西部と東部をつなぐTranscontinental Railroadの労働者として移住を始めた中国人とともに、日本人も国内の景気の悪化のため、アメリカでの経済的成功を求めて労働者として移住を始めました。ですので、おおよそ日系アメリカ人はアメリカでは160年の歴史があるわけで、一番最初に訪問した日系移民の子女は今では4世や5世、あるいはそれ以上の世代を経ているわけですが、常に日系移民が続いていたわけでなく、北米の日系アメリカ人の歴史では大きく二つの分断期がありました。一つは、19世紀末からアメリカでのアジア人差別「黄禍論」が広まった際に、日本政府とアメリカ政府の間で結ばれた日米紳士協定(1907)による日本政府の自主的アメリカ移民制限、もう一つは、第二次世界大戦の日米開戦(1941)です。 今回紹介しようと思ったのは、その分断期について書かれた資料で、一つは、Daniel Inouye氏による以下の本で、日本の最初の移民から、第二次世界大戦の日米開戦(1941)まで(いわゆる最初の分断期)について書かれています。 Inouye, Daniel H. (2018). Distant Islands: The Japanese American Community in New York City, 1876-1930s. Boulder, Colorado: University Press of Colorado. もう一つはウェブサイトなのですが、Japanese American ...
  • ニューヨーク市のDual Language Programについて

    PS147のJapanese Dual Language Programが2019年からはPre-KからGrade 4まで行われるということで、軌道に乗り始めてきたそうですので、ちょっとニューヨーク市におけるDual Language Programを含むBilingual Programのこと全般について書いてみようと思いました。ニューヨーク市の2017年時点のBilingual Programの統計的をNYC OpenDataで引っ張ってきて、簡単な分析をしました。 最初はBilingual Programの場所に関するデーターです。 場所的には、Staten Islandを除く全ての場所に平均的に分散しています。 プログラムのタイプですが、Dual Language Programと、Transitional Bilingual Educationに分けられます。どちらのプログラムも英語以外の言語(家庭言語)を学校の指導に使うのですが、この二つのプログラムの違いはDual Language Programが英語と家庭言語の両方の保持を目的とするのに対し、Transitional Bilingual Educationは家庭言語の学校での使用頻度を年々減らしていき、最終的には、英語のみのクラスに編入していくという目的があります。 パッと聞くと明らかにDual Language Programの方がいいじゃないかと思うのですが、プログラムそれぞれのいろいろな事情でTransitional Bilingual Educationを選択する学校が多くあります(統計上は半数以上がTBE)。よくある事情としては、 子供達の家庭言語の使用頻度が高い言語の場合は、学校で家庭言語を保持する努力をしなくても、家庭言語を話し続けるだろうという妄想がある。よくある例としては、スペイン語を家庭で話す子女がTBEに2-3年くらいいたら英語でも授業が理解できるようになるので、TBEを卒業して英語だけのクラスに行くというパターンがある。 もともとBilingual Programは、英語で授業しても理解できない子女に英語で授業をするのは憲法上の違法だという理念の上にできているので ...
  • English Language Learnersに関するワークショップに行ってきました

    上の子が通っているpublic schoolで、English Language Learners (ELL)に関するワークショプがあったので行ってきました。とても有益なワークショップでしたが、参加者は3名だけで、結構バイリンガルの子供が多い学校なのに保護者の興味が薄いのにはびっくりしました。 で、最も印象深かったのは、ニューヨーク州の規則で英語話者でない児童へのサポートを行うように規則があるのですが、その実施の仕方は、各学校でかなり異なるということです。中には、学校の大部分の児童がELLで、学校全体で児童の英語獲得に力を入れている学校もあれば、ほぼ全体が英語のみを話す児童で、ELLに対するサポートに関するノウハウが理解されていない学校もあるようでした。 日本語のDual Language Program (DLP)があるPS147など、ELLのサポートにDLP (50%英語話者、50%多言語話者がまざったクラスで、英語と児童の過程言語の二言語で指導するプログラム)はどんな感じですかという質問をしたのですが、実際上は、大体のところがtransitional programで大体DLPでも2-3年くらいで児童が英語だけのクラスに移行してしまうという話でした。ですので、DLPで例えば5年生に在籍する学生は、DLPをずっとKindergartenから続けてきたわけではなく、3年生くらいで移民してきた児童の子供がいるという感じみたいです。PS147の日本語のDLPでは、常に日本語を母語とする移民児童がいるわけでないので、そういう場合はどうなるのかと思いました。 ワークショップで大事だと思ったのは以下の通りです。 子供がELLと判定された場合は、学校はニューヨークの州法 (NYSED Commissioner Regulations Part 154 (CR Part 154))に沿って、English as New Language (ENL)という英語の獲得を目標にしたサポート (90min – 360min ...
  • 「日本語教育の推進に関する法律案」(日本語教育推進法案)

    日本の超党派で作られた日本語教育推進議員連盟が、「日本語教育の推進に関する法律案」(日本語教育推進法案)という法案の作成を目標にしているということで、海外に住む日本語継承語話者にどのような関係があるのかをまとめてみました。 2018年の5月で発表された案では、国内の外国人居住者への日本語教育という面が重要視されていて、海外で日本語を保持していく継承語話者への対応が記載されていなかったのですが、プリンストン日本人学校のカルダー淑子先生などが中心となって、この法案の対象に海外継承日本語教育を盛り込んでほしい旨の要請文が2018年7月に日本語教育推進議員連盟に送付されました。 http://www.nihongoplat.org/2018/07/19/特集・日本語議連-日本語教育推進基本法の原案へ/ また、「日本語教育推進基本法案への要請文」への賛同署名活動も始まりました(以下の通り、すでに「日本語教育の推進に関する法律案」では継承語話者に対しても、かなりの記述が含まれるようになったのですが、今も署名活動は続いているそうです。)。 https://sites.google.com/site/keishougo/kihonhoan?fbclid=IwAR1QfBg_vMzgqIZAoY9L4tBoLVtQxXYzW74tebFMzFUhKIOLICtKgtrvyo0 カルダー先生を含め、海外で継承語教育に従事している人たちの複数の方が、署名リストを持って東京まで一時帰国し、議員団への直接陳情などもしたようです。その甲斐あって、2018年の12月に議員団の総会で承認された最終的な「日本語教育の推進に関する法律案」には、以下のような変更がありました。 原案: 「国は、在留邦人の子等を対象とする日本語教育の充実、支援体制の整備、その他の必要な施策を講ずるものとすること。」 改定後: 「国は、海外に在住する邦人の子、海外に移住した邦人の子孫等に対する日本語教育の充実を図るため、これらの者に対する日本語教育を支援する体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。」 以下のブログにも書いてありますが、5月の法案の概要ができた時点からの海外からの運動活動は、日本の通常の議員立法の手法からすると「空気を読めてない動き」にも映ったようですが、自分が聞いた話ですと、関係者の方々もできるだけ直接議員に話ができるように働きかけてくれたり、議員団も誠実に話をきいてくれたそうです。 https://note.mu/uichi1113/n/ne129648dad1b 通常だと、「もうすでに決まったこと」としてあしらわれてしまうような変更の陳情が「日本語教育の推進に関する法律案」で聞き入れられたのは、従来の前例踏襲的なやり方ではなく、普通の型にはまらないような人たちの声をできるだけ拾っていこうという日本語教育推進議員連盟の議員や、議員団と活動している関係者の方の考え方が現れていると感じました。 署名の場所がChange.orgに移ったそうです。リンクは、https://www.change.org/p/外国人の日本語教育を法的に位置付けるための法律の早期成立を求めますとのことでした。 「にほんごぷらっと」によると、「日本語教育推進法案」は衆院文部科学委員会を経て、衆院、参院を経て2019年の国会で成立する見込みとなったようです。今後の、この法案の海外での日系子女への日本語教育への影響がどのようになるのか非常に興味深いです。 http://www.nihongoplat.org/2019/05/21/【速報】-日本語教育推進法案が22日の衆院委員会/