継承日本語学校の種類

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ニューヨークでの継承日本語教育の概要

ニューヨークの幼児教育/保育について

日本では、通常、3歳未満の児童は厚生労働省 (児童福祉法)が所管する保育所(保育園)、3歳以上からの児童は文部科学省が所管する幼稚園 (3歳以上、6歳未満)、小学校 (6歳以上、12歳未満)、中学校 (12歳以上、15歳未満)、高等学校 (15歳以上、18歳未満)での保育がされていますが、アメリカ、ニューヨーク州での主な区分は、Potty Trainingが終わる時期 (2-3歳)、 Pre-K (4歳), Kindergarten (5歳)、Elementary school (6歳以上、11歳未満)、Middle School (11歳以上、14歳未満)、High School (14歳以上、18歳未満)となっています。以前は、potty trainingが終わらないとデイケアなどには入れられないと言われていましたが、最近では、一歳未満でも預かってくれるところが多くあります。Kindergartenは、通常Elementary Schoolの一部として存在しているので、日本のいわゆる小学校入学というのはアメリカではあまり言われる事はありません。

アメリカでは、K-12が義務教育となっているので (ニューヨークはPre-K、Kindergartenは義務化されていないが実質上は全員が就学できる)、5歳以上の児童は通常いずれかの全日制の学校に通っていることになります。5歳未満の児童に関しては、ベビーシッター、プレイグループ、デイケア、ナーセリースクールなどの時間や曜日が様々に異なる選択肢がありますが、中には全日制の保育を行っている施設もあります。2015年からニューヨーク市では、Pre-K(indergarten)を無償化する政策が始まり、Universal Pre-Kに加入している学校であれば、4歳児の全日制の保育が無償で受けられることになっています。また、ニューヨーク市で、Universal Pre-K (3K for All)を3歳から始めることが決まっており、3歳からでも無償で通える全日の学校も段階的ですが、各地増えてきています。

ニューヨークでの幼児への継承日本語教育にかかる費用

予算的には、子供が小さければ小さいほど、子供の保育費用はかかる傾向にあります。例えば、1歳からの保育になると、まずは預かってくれるところも少ないし、預かってくれる場合でも、保育費は2-3歳の子供の保育費よりもかなり高く設定されていることが多いです。他方、3-4歳までは非常に費用がかかりますが、公立教育施設に子供を送る予定の人であれば、3-4歳以降は全日の部分(8:30am-2:30pm)は公立学校で賄ってくれるので、かなり費用的には安くなります。

日本語を継承語として子供達に保持させたいと考える予定の保護者の場合、大まかな感じとしては、日本語での保育費用は以下のような感じです。

  • 未就学児(3-5歳まで)の全日保育: $1,000-2,000/m (+3-4pm以降の延長保育料: $500-1,000/m)
  • 未就学児(3-5歳まで)の週1日数時間程度の一時保育: $3,000/y
  • 就学児の全日保育: $10,000-15,000/y
  • 就学児の週1日(土曜日)の日本語教育: $2,500-4,000/y
  • 就学児のアフタースクールでの日本語教育: $500/m
  • 未就学児、就学児への日本人のナニーさん (5h/d, 20 days per month): $1,500-$2,000/m

英語での保育機関の料金と比べると、多少は高い傾向にありますが、アメリカでの育児の際に、英語だけでなく日本語教育をするからといって育児に大きな追加費用がかかるということはないようです(それよりも日本への一時帰国などの方が格段にコストが高いです)。

4-5歳未満の未就学児の子供の場合は、ニューヨーク州とニューヨーク市が管轄しているいろいろな種類の児童保育サービスを日本人の方が運営しているということが多いです。一部の現地のプログラムが通常の英語による教育、保育に加えて、日本語のバイリンガルプログラムを運営しているというケースもありますが(例えば、PS147やYMCA Long Island City)、未就学児の子女向けのプログラムは非常に少ないです。

ニューヨーク市における児童保育サービスの大まかな草分けは以下のようになっています。日本語でおこなっているデイケアなども、これらのいずれかに該当している必要があります。

タイプ/Type対象年齢/Age詳細/Description
チャイルドケアセンター (Child Care Center Non-residential)0-6歳ニューヨーク市 (DOH Bureau of Day Care)からの免許制で認可されている学校。児童は3名以上。すべての施設に対してNYC DOHの立入検査がある。グループデイケア (Group Day Care)ともよばれる。
スクールエイジ•チャイルドケア (School Age Child Care)5-13歳ニューヨーク州、ニューヨーク市 (DOH Bureau of Day Care)への届出制で認可されている学校。児童は7名以上。20%の施設がNYC DOHの不定期立入検査を受けている。
ファミリーデイケア (Family Day Care)6週 - 6歳ニューヨーク州、ニューヨーク市 (DOH Bureau of Day Care)への届出制で認可されている学校。児童は3-6名。20%の施設がNYC DOHの不定期立入検査を受けている。
グループファミリー•デイケア (Group Family Day Care)6週 - 12歳ニューヨーク州、ニューヨーク市 (DOH Bureau of Day Care)への免許制で認可されている学校。児童は7から12名。すべての施設に対してNYC DOHの立入検査がある。
ベビーシッター (インフォーマルケア) (Baby sitter (Informal Care))0 - 12歳2名までの保育であればニューヨーク州、ニューヨーク市からの認可対象外。苦情の時のみNYC DOHの立入検査がある。

就学児(5歳くらいから)になると、日本語の継承語教育方法もいろいろオプションが増えてきます。また、上記のように現地校の義務教育が始まりますので、現地校が始まると、日本語による継承語教育は、通常、土曜日や日曜日の週末や、アフタースクールプログラムでおこなう事になります。数は少ないですが、現地校で日本語のバイリンガルプログラムを行なっている学校に通うというオプションや、最近増えてきたオンラインによる日本語学習というオプションなどもあります。

日本政府が海外で運営する日本語教育機関

ニューヨーク市などの都市圏では、現地で作られた継承日本語学校以外にも、日本政府が支援をして運営している教育機関で日本語を学ぶという選択肢もあります。このような日本政府が支援をする教育機関は、正式には「在外教育施設」と呼ばれ、そのうち継承日本語教育に関係のありそうなものは、以下のようなものです。

  • 日本人学校: 通常、「全日」とか言われる日本人学校です。ニューヨーク近郊では、ニューヨーク日本人学校がコネティカット州に、ニュージャージー日本人学校がニュージャージーにあります。文部科学省の在外教育施設未来戦略2030の資料 (https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/ukeire/1417980_00001.htm)によると、全世界に95校の日本人学校が存在し、主に日本から派遣されてきた教員などによって、「国内の小・中・高等学校における教育と同等の教育を行う」学校です。ニューヨークでは、全日の日本人学校に通うのは、主に短期間(3-10年)での日本帰国がハッキリしているというバックグランドの保護者(駐在など)が多いです。
  • 補習授業校: 通常、「補習校」とか「土曜日学校」とか言われる、土曜日や放課後等を利用して一部の教科 (国語、算数・数学が中心)の授業を行う学校です。全日の日本人学校が運営する補習校(ニューヨークでは、ニューヨーク補習授業校Long Island校とか、ニューヨーク補習授業校Westchester校とか)や、現地の教育機関や有志で運営されている補習校(ニューヨークでは、ブルックリン日本語学園など)があります。上記の文部科学省の資料によると、現在、全世界に229校の補習授業校があります。補習授業校の目的は、現地校などに通学する日系子女が帰国後にスムースに日本の教育機関に編入できるようにするためで、そのため、補習授業校では新学習指導要領に沿って、学年に応じた授業が行われます。本来は、日本語を継承語として使用する子女のための学校ではありませんでしたが、最近は、帰国の予定がない子女や、日本語を継承語として話す(英語を主要言語とする)子女が多くなってきています。
  • 補習教室・その他: 日本政府からの直接的な支援を受けない日本語教育機関で、ニューヨークでは、ニューヨーク育英学園や、リセケネディーなどが当てはまります。日本の文科省からの教員派遣や、校舎借料などの直接的な支援は受けませんが、補習授業校と同様に、新学習指導要領に沿って日本の教科書を使って授業を行うところもあれば、独自のカリキュラムで日本語を使った授業をするところもあります。また、ニューヨークでは、2010年くらいからは、保護者が主体となって、継承日本語教育のための学校運営をするところができ始めてきました (「ブルックリン虹のかけ橋日本語学校」や「ブルックリン日本語学園」など)。

在外教育施設は全世界に存在し、最近は、現地の教育機関では満足な教育が受けられない場所にいる日本人子女のために、日本語による教育の機会を与えるという目的のため作られています。ですので、ニューヨークのように、現地校でも高いレベルの教育が受けられるところですと、その存在意義がほかの国の在外教育施設とは少し変わっています。基本的には、在外教育施設の目的は日本に帰国をする子女のための教育であり、日本語の継承語教育が主たる目的ではないことを考えると、もし子供が将来、英語を主たる言語として使用し、日本語はあくまで継承語であるという位置付けがハッキリしているのであれば、ニューヨークであえて在外教育施設を選ぶ必要性は薄いように感じます。

実際、ここでも紹介していますが、北米では、97.8%の子女が日本人学校には所属せず、現地校のみ(日本語による学校教育なし)か、現地校に通いつつ補習校に通っているというデータがあります。

北米地域での邦人子女への日本語教育Image

この記事によると、アジア圏の在留邦人子女では、日本人学校に通学している人が60.5%になるとの事なので、それぞれの地域の現地校の使用言語や、教育のクオリティーなどによって、日本人学校への通学率はかなり異なるようです。

0歳から4-5歳までの子供への継承日本語機関

ここからは、ニューヨークにある未就学児向けの継承日本語機関の代表的なものを簡単に紹介しています。ここで紹介しているところ以外にも、いろいろなオプションがあるので、ここなどの情報もご覧ください。

  1. スターチャイルド (Starchild)
    • 435 East 6th Street, New York, NY, 10009
    • 週5日の全日 (9am-4pm)
    • ベビークラス (満六ヶ月-二歳)
    • $1,978 / month (2015年度)
    • After school baby sitter (4-6pm): $680 / month
  2. スターチャイルド (Starchild)
    • 435 East 6th Street, New York, NY, 10009
    • 週5日の全日 (9am-4pm)
    • ベビークラス (満六ヶ月-二歳)
    • $1,978 / month (2015年度)
    • After school baby sitter (4-6pm): $680 / month
  3. スターチャイルド 寺子屋 (土曜日学校) (Starchild Saturday)
    • 435 East 6th Street, New York, NY, 10009
    • 土曜日のみの1.5時間
    • 3歳から
    • $1,040 – $1,274 / 3 months
    • 入園料: $250 (入園児のみ), 教材諸経費 $50 / 3 months
  4. ニューヨーク育英学園 ニュージャージー校 (Japanese Children’s Society New Jersey Campus)
    • Japanese Children’s Society, 8 West Bayview Avenue, Englewood Cliffs, NJ, 07632
    • 週5日の全日 (9:00am-2:50pm)
    • 3歳-5歳
    • 授業料: $11,350-11,550/y
    • 諸経費: 登録料 $50 (応募時のみ), 入園料 $980 (入学時のみ), 教材費: $ 630/y, 設備費 $900/y, バス $2,296-$4,732/y
  5. リセケネディ日本人学校 (Lyceum Kennedy Japanese School)
    • 225 East 43rd Street, New York, NY, 10017
    • 週5日の全日 (8:30am-2:30pm)
    • 3歳-5歳?
    • 授業料 $13,600/y
    • 諸経費: 応募料 $275 (応募時のみ), 施設教材費 $475/y

4歳から12歳くらいまでの子供への継承日本語機関

まずは、継承日本語教育とは直接は関係ないですが、就学児向けのニューヨーク市のいわゆる学校と呼ばれる施設は以下の通りです。アメリカの学校は、それぞれの学校で対応している学年が異なっているので、中にはElementaryとMiddle Schoolがくっついた学年を教えている学校などもあります。3KやUPKなどは、Elementary Schoolに付属するところもありますが、ほとんどが独自の保育機関が3KやUPKのみをやっていることが多いです。

タイプ/Type対象年齢/Age詳細/Description
スリーケー (3K)3歳2019年からニューヨーク市で無償Pre-Kを4歳から3歳に拡張することが決まりました。段階的ですが、ニューヨーク市の一部では、UPKが3歳から無償で受けられます。
プリケー (Pre-K)4歳2015年からニューヨーク市では、Pre-K(indergarten)を無償化する政策が始まり、Universal Pre-Kに加入している学校であれば、4歳児の全日制の保育が無償で受けられることになっています。公立学校の一部として運営されているPre-Kと、Universal Pre-K専用に運営されているEarly Childcare Centerがあります。日本でいうと、幼稚園年少、年中のようなもの。
キンダガーテン (Kindergarten)5歳通常、5歳から全日制での義務教育が始まる(ニューヨークではKinderartenは義務化されていないが、事実上、義務教育の一環となっています)。ほとんどの校舎では、KindergartenとElementary Schoolは同一の施設の事が多いです。日本でいうと、幼稚園年長。
エレメンタリースクール (Elementary School)6-10歳程度いわゆる日本の小学校。
ミドルスクール (Middle School)10歳程度-13歳程度いわゆる日本の中学校。
ハイスクール (High School)14歳程度-17歳程度いわゆる日本の高校。

現地校は、ごく一部を除いては日本語の継承語教育は行っていません。ですので、継承日本語教育を行うのであれば、現地校以外のオプションか、現地校以外にも追加して継承語学校に通う必要があります。全日での保育が始まると、全日の日本人学校かBilingualプログラムがある学校に入学しない限り、日本語での保育は、アフタースクールか週末学校に限られてしまいます。保育費用的には、4歳になって公立教育機関に入るのと、プライベートな継承日本語教育機関に入るのとでは、非常に大きな違いがでてきます。

全日の就学児向け (4-6歳以上の子女)への日本語教育機関は以下のようなものがあります。

タイプ/Type対象年齢/Age詳細/Description
アフタースクール (After School Program)4歳-17歳ほとんどの学校は午後2-3時に終わるので、それから父兄の仕事が終わる午後5時くらいまでの間の時間を保育するプログラム。中には日中のプログラムは行っていないが、アフタースクールプログラムのみを行っている団体もある。日本でいうとクラブ活動のようなもの。
週末学校 (Weekend School)4歳-17歳土曜日か日曜日の一日だけの学校。日本政府が運営する日本人学校の補習校もこれにあたる。サタデースクールとかサンデースクールとかも言われる。
教室(文化系) (Cultural Lessons)2歳-17歳日本の文化系の習い事。習字、コンピュータ、そろばんなど。日本語で指導してくれるところもある。
教室(日本語) (Japanese Lessons)2歳-17歳日本語を教えてくれるクラス。それぞれの家庭に訪問するサービスなどもある。
教室(スポーツ) (Sports Lessons)2歳-17歳日本のスポーツ系の習い事。空手など。日本語はあまり使われないが、日本文化を知る機会にはなる。
4歳から12歳くらいまでの子供への継承日本語機関 (全日)
  1. ウィリアムズバーグ PS147 ドュアルラングエッジ プログラム (Williamsburg PS147 Dual Language Program) 
    • PS147, 325 Bushwick Avenue, Brooklyn, NY, 11206
    • 週5日の全日 (8:30am-2:30pm)
    • 5歳から
    • 授業料: 無料
    • 諸経費: なし
  2. ニューヨーク日本人学校 (The Greenwich Japanese School / The Japaense School of New York)
    • Greenwich, CT
    • 週5日の全日
    • 6歳から15歳まで
    • 授業料: $7,347/y (初等部) $8,286/y (中等部) (2014年度)
    • 諸経費: 入学金 $800 (入学時のみ), 教材費: $ 573/y (初等部) $ 888/y (中等部), 施設維持費 $360/y, スクールバス代 $3,060 /y
  3. ニューヨーク育英学園 ニュージャージー校 (Japanese Children’s Society New Jersey Campus)
    • Japanese Children’s Society, 8 West Bayview Avenue, Englewood Cliffs, NJ, 07632
    • 週5日の全日 (9:00am-3:30pm)
    • 6歳-
    • 授業料: $11,900/y
    • 諸経費: 審査試験料/手続き料 $60 (応募時のみ), 入園料 $1,000 (入学時のみ), 教材費: $ 930/y, 設備費 $900/y, バス $2,296-4,732/y
4歳から12歳くらいまでの子供への継承日本語機関 (週末学校/アフタースクール)
  1. ニューヨーク補習授業校
    • Westchester & Long Island
    • 土曜日のみの全日
    • 満四歳児〜
    • 学校納付金: 幼児部 $2,124/y, 初等部 $1,788/y, 中等部 $2,922/y, 高等部 $3,419/y (2019年度)
    • 諸経費: 申込金/入学金 $400 (入学時のみ), 教材費 $70-120
  2. YMCA ロングアイランドシティー (YMCA Long Island City)
    • Queens Blvd, Long Island City, NY 11101
    • 週5日のアフタースクール (3am-6pm)
    • 5歳から6-7歳?
    • 授業料: $500 / month
    • 諸経費: なし
  3. リセケネディ日本人学校 土曜補習クラス (Lyceum Kennedy Japanese School Saturday Class)
    • 225 East 43rd Street, New York, NY, 10017
    • 土曜日のみ
    • 3歳-?
    • 授業料: 幼児 $3,680/y , 小学生 $3,570/y, 中学生 $3,250/y
    • 諸経費: 応募料 $275 (応募時のみ), 施設教材費 $400-$450/y
  4. ニューヨーク育英学園サタデースクールマンハッタン校 (Friends Manhattan Saturday)
    • 222 E 16th St, New York, NY 10003
    • 土曜日のみ
    • 5歳-15歳
    • 授業料: 幼児 $3,116/y , 小学生 $3,154/y, 中学生 $3,230/y
    • 諸経費: 入学金 $450 (入学時のみ), 共通教材費 $285/y, 施設教材費 $360/y

上記でも紹介していますが、北米地域、特にニューヨーク近郊で一番多いパターンとしては、「現地校+補習校」のパターンです。紹介した調査によると、北米地域では、56.4%の人が現地校+補習校に通学しているとなっています。ただ、こちらは文科省が行った調査に基づくデーターで、文科省が支援をしていない、いわゆる継承語学校(保護者によって作られたインフォーマルな学習グループや、文科省からの支援を受けていない週末学校など)に通っている人は含まれていませんし、補習校へのアクセスが比較的簡単なニューヨーク市都市部などの子女を考えると、かなり多くの子女が「現地校+補習校(あるいは、非公式な週末継承語学校)」に通学していると考えられます。

こちらで、現地校と日本の学校歴を使用している週末学校(補習校など)に通う子女の進学カレンダーをシェアしています。

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継承日本語話者の日本語能力

よく言われる話として、子供は家庭で日本語を使っていて、学校入学の際には英語の能力の方が心配だったけれども、英語での全日の保育が始まったら数年で英語が上達し、それと反比例するように日本語の能力が減っていったという話をよく聞きます。ある日突然、子供に日本語で質問したら、英語で返答されたという時点では、日本語の継承語としての保持という点ではかなり手遅れの状態です。うちでは日本語だけを話しているのだから、特に学校で何もしなくても日本語は忘れないだろうというのは、完全な妄想です。アメリカでは、5歳くらいまで家庭で英語以外の言語(例えば、スペイン語や中国語など)を使用していても、10歳くらいになるとその言語をすっかり使わなくなってしまっているというケースも多くみられます。私の家庭は家族全員が日本語を話すので大丈夫というのは間違いで、もし子供と将来日本語でのコミュニケーションを図る必要があるのであれば、いずれかの形で日本語能力の向上と保持を行った方がよいでしょう。

北米でのもっとも大規模な継承日本語話者の日本語能力の測定結果に関しては、以下のような研究があります。

  • Kataoka, H. C., Kishiyama, Y., & Shibata, S. (2008). Japanese and English language ability of students at supplementary Japanese schools in the United States. In K. Kondo-Brown & J. D. Brown (Eds.), Teaching Chinese, Japanese and Korean heritage language students: Curriculum needs, materials, and assessment. (pp. 47-76). New York, NY: Erlbaum.
  • Kondo-Brown, K. (2005). Differences in language skills: Heritage Language Learner Sub-groups and Foreign Language Learners. The Modern Language Journal, 89, 563-581.
  • Hasegawa, T. (2008). Measuring the Japanese proficiency of heritage language children. In K. Kondo-Brown & J. D. Brown (Eds.), Teaching Chinese, Japanese and Korean heritage language students: Curriculum needs, materials, and assessment. (pp. 77-98). New York, NY: Erlbaum.
  • Nakajima, K. (2016). 海外日系児童生徒とバイリンガル教育. (Ch. 9). In バイリンガル教育の方法: 12歳までに親と教師ができること. (pp. 181-200). Tokyo, Japan: ALC.
  • Mori, Y. & Calder, T. M. (2015). The Role of Motivation and Learner Variables in L1 and L2 Vocabulary Development in Japanese Heritage Language Speakers in the United States. Foreign Language Annals, 48(4), 730-754.

Nakajima (2016)はここで、Mori & Calder (2015)はここで紹介しています。

大まかな感じですと、日本語の継承語学校(補修校などの週末学校)に通っていても、平均的には、いわゆる言語学的な臨界期 (12-13歳くらい)では、日本語の能力では、数年の遅れがあるとのことです。日本語能力の伸びに関しては、家庭での言語保持のサポートや、家庭で日本語を母語とする人がどの程度いるのかなどが、重要な要素となることがわかっています。

いつから継承日本語教育をはじめたらよいか

家で日本語が主な言語として使用されている家庭の場合は、子供の継承日本語教育は全日の保育がはじまる4歳児からが重要になってきます。子供の継承語教育を始める上で、よく保護者が継承日本語教育で悩むことが多いと聞く要素としては以下のようなものが挙げられます。

  • 日本に帰国するかどうかがわからない。子供が学齢期の際に、日本に帰国するのであれば、日本の学校にも転入できるように日本語学習しておきたい。
  • 配偶者が、日本語と英語以外の他の言語を母語としていて、日本語だけでなく、他の言語と日本語にどの程度労力をかけるべきかがわからない。
  • 配偶者が二人とも日本語母語話者で、家庭以外で継承日本語教育をしたほうが良いかわからない。

日本に帰国するかどうかは、様々な状況が変化するので決めるのが難しいと思いますが、もし帰国する可能性があり、子供が日本語能力を保持する必要性があるのであれば、なんらかの継承日本語教育を4-5歳くらいには行った方が良いと思います。基本的には、早ければ早いほど、子供たちにとっては日本語の学習を生活パターンに導入しやすいです。例えば、日本語能力がある程度ある子女でも、小学2年生くらいから継承語学校に通おうとすると、生活パターンがかなり変わってしまい、日本語能力では問題ないものの、生活リズムの変化のためにドロップアウトすることもあります。

また、多くの継承日本語研究が、子供の継承語能力と日本語のメディア(本やテレビ)との相関性を示しているので、図書館や日系の本屋さんなどで日本語の本を購入したり、日本語のテレビを家でもみられるようにしておくことなどは、子供の継承語発達には役に立つと思われます。

子女の保護者の母語に関して、よくあるケースは以下のようなパターンです。

  • 両親ともに日本語が母国語、あるいは日本語第二言語話者で、家庭での子供との会話は、ほぼ全部を日本語で行なっている。全日の保育が始まる頃には、子供は日本語の能力は日本語母語話者と同レベルのことが多い(通常の会話は日本語ですべてでき、ひらがななど、ある程度の日本語の読み書きができる)。多くの家庭が、全日の保育が始まる前に、英語母語話者のナニーを雇ったり、デイケアに通わせたりして、英語での保育を取り入れているようですが、英語の能力はまちまちで、中にはPre-KレベルでESLの可能性があるとの指摘を受ける子女もいます。ESLの可能性を指摘されてpull-out ESLなどの特別指導を行われた場合でも、Pre-Kや低学年レベル(Grade 2-3)の子女だと、通常は数年経つと、英語の能力はネイティブと同レベルに達することがほとんどです。他方、それと反比例するかのように、日本語能力の伸びは遅くなり、日本語の能力は小学校低学年レベルで停滞することが多いです。週末学校などで日本語教育を受けない場合は、特に読み書きは伸びが遅く、ある程度の日本語での会話ができるものの、ひらがなしか読めないという継承日本語の子女も多くいます。
  • 母親の母国語が日本語で、父親の母国語が英語かそれ以外の言語の家庭。家庭での子供との会話は、母親と子供の二人の間の会話以外はすべて英語で行っている。このケースだと、全日の保育が始まる頃の子供の日本語能力はまちまちで、中には日本語母語話者と同レベルの日本語能力を持っている人もいるようですが、ほぼ日本語ができないという子女も時折見受けられます。子供の日本語能力は、母親が子供に話しかける時にどの言語を利用するか、あと、子供が母親に話しかけるときにどの言語を選んでいるかで、だいたい予想ができます。母親の多くが、子供と日本語で話していると、父親にわからない秘密の話をしているのではないかと思われるのではないかと気遣い、英語で話す人がいますが、そういった家庭では往往にして、子供の日本語能力は伸びていないことが多いです。あらかじめ夫婦間で子供の日本語保持のために、母親と子供の会話は日本語で行うという共通理解を持てるような相談をすることが重要です。
  • 父親の母国語が日本語で、母親の母国語が英語かそれ以外の言語の家庭。残念ながら様々な研究から、子供の言語獲得において重要な家庭言語環境の中で、父親の母国語はそれほど重要でないとわかっています。おそらく、男女の格差が比較的少ないアメリカでも、子供の保育は母親の仕事であることが多いからではないかと思います。このパターンですと、大体の子女が、全日の保育を開始する際に、日本語での保育ができるレベルの日本語能力を持っていないことが多いです。

ですので、配偶者が、日本語と英語以外の他の言語を母語としている場合は、データ的には、母親の母語の方が継承語として保持はしやすいようです。もし、英語、日本語、他の言語の難しい選択を狭われる場合は、上記のデータを考慮して、どの言語がそれぞれの家庭環境で保持しやすいのかなども考慮した方が良いのかも知れません。

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