継承日本語の研究

継承語に関する研究について紹介しています。日本語に特化した研究以外にも、他の言語の研究なども紹介し、総合的に継承語の維持について考えています。他にも、継承語の研究に関する入門書なども紹介しています。

  • JOESの「海外に住む子どもたちのための わかりやすい国語」プロジェクト

    JOESの「海外に住む子どもたちのための わかりやすい国語」プロジェクト
    在外で日本語を学習する子女のための出国前、帰国後のサポートや、海外での教科書の配布などを行なっている「海外子女教育振興財団 (JOES)」が、「海外に住む子どもたちのためのわかりやすい国語」という海外で日本語を継承語として学習する子女の支援を行うプロジェクトを開始しました。 https://www.youtube.com/watch?v=fwkTQl7SaK4 元々、「海外子女教育振興財団 (JOES)」は、文部科学省の許可を受けた財団法人として、文科省の指針に沿って、1970年代から海外で日本語で教育を受ける子女の支援をしてきた組織です。これまでは、1970年代の日本の高度成長期の際に海外赴任していた、いわゆる「駐在組」のみへの支援をしてきたのですが、「在外教育施設における教育の振興に関する法律」の制定などもあり、いわゆる「永住組」の継承語支援にも2024年から乗り出した経緯があります。 正式にJOESの方針がどのように変わったのかは発表されていないので、個人的な意見になりますが、自分が感じるJOESの方針で変わった点、変わっていない点は以下の通りです。 これまでは、JOESのサービスの対象は、いずれ日本に帰国する予定のある「長期滞在者」の子女の支援であり、目標としては、それらの子女が日本に帰国した際に、日本の学校でも問題なく学習を続けていける事だった。それが、今回は、帰国の前提がない「永住者」を視野にいれたサービスも開始されるようになった。 これまでは、JOESによる海外での日本語による教育は、全日の「日本人学校」と週末の「補習授業校」の2つが主な柱だったが、それに「継承日本語教室」やオンラインによるホームスクールなども視野に入った。 文部科学省の方針に沿ってサービスを提供しているので、JOESの対象はあくまで、日本国籍を持った日本人子女のみ。「永住組」の子女全員がJOESの対象になったわけでなく、日本国籍を有している子女だけが対象。対象の設定は、日本語を継承語として学ぶ意思などではなく、あくまで国籍と法律による国の責務による。ただ、逆に言うと、日本国籍を持っていれば、日本語能力が完全に消失した子女も対象になっている(日本語を外国語として学ぶサポートも入る)。 ...
  • ニューヨークの在留邦人数(「長期滞在者」と「永住者」)の1997年から2024年の変遷

    ニューヨークの在留邦人数(「長期滞在者」と「永住者」)の1997年から2024年の変遷
    ニューヨークでは、近年、補習校や継承語学校などで日本語を勉強する子女が増えたとか、いわゆる「駐在組」子女ではなく、「永住組」子女で日本語を学習する人が増えたという話をよく聞くようになりました。実際にデーターではどうなっているのかと思い、外務省の「海外在留邦人数調査統計」で統計データーを見てみることにしました。今回、参照したデーターは以下のウェブサイトから入手したものです。 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/index.html https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_003338.html 「海外在留邦人数調査統計」は、主に大使館や総領事館に提出する在留届をものに作成されているもので、その他にも、主要な日本人会などがあるところでは、そこからもデーターを取得しているそうです。データーは、「北米」「アジア」「西欧」などの大きな地域に分けられ、また、国別、都市別にも地域わけされて提示されています。邦人は、「生活の本拠をわが国から海外へ移した人々」を「永住者」とし、「海外での生活は一時的なもので、いずれわが国に戻るつもりの人々」を「長期滞在者」として区分けしています。邦人数には、在留期間が3ヶ月に満たない短期滞在者と日本国籍を有さない邦人は含まれていません。 大体の傾向をまとめると以下のようになります。 全世界の在外邦人数は、1997年から2019年まで増加。1997年(782,568人)と2019年(1,410,356人)を比べると、約1.8倍になった。2019年以降は、減少傾向が続いている。この減少パターンは、コロナ禍が影響しているかと思われる。 ...
  • 2000年初期の大学レベルでの継承語教育に関する提言

    2000年初期の大学レベルでの継承語教育に関する提言
    Kondo-Brown, K. (2003). Heritage Language Instruction for Post-secondary Students from Immigrant ...
  • 継承日本語話者の漢字能力とその話し言葉への影響

    継承日本語話者の漢字能力とその話し言葉への影響
    Matsunaga, S. (2003). Instructional Needs of College-Level Learners of Japanese as ...
  • ニューヨーク日本人教育事情

    ニューヨーク日本人教育事情
    タイトル: ニューヨーク日本人教育事情 作者: Y's Publishing ...
  • 日本語補習校での戦争教育について その2

    日本語補習校での戦争教育について その2
    前回のトピックに引き続き、今日は継承日本語話者への戦争教育について書いてみようと思います。前回は、日本語補習校で使われている教科書で戦争がどのように導入されているかを書いたので、今回は、アメリカの学校(ニューヨーク市の公立学校)で戦争がどのように扱われているかをまとめてみようと思います。 まず、最初に、アメリカの公立初等教育のシステムについてですが、 日本の公立初等教育が「教育指導要領」に沿って作られた教科書を使用して指導要領に沿って、日本のどこでも同じカリキュラム使って教えるという中央集中性なカリキュラムなのに対し、アメリカは学校教育における中央の連邦政府の役割と、地方の政府や教育機関の役割が別れており、日本と比べると、地方の政府や教育機関の役割が高いと感じます。これはアメリカは連邦政府制なので、教育だけではなく、司法や行政などにおいても中央政府と地方の政府のそれぞれに役割が分担されているので、特にアメリカの教育システムが前衛的であるというわけでは無いのですが、地域の特色や教育を受けている人たちのバックグラウンドなどを考慮してカリキュラムが作成できるようになっています(他方で、教育を受ける場所によって違った教育カリキュラムを使うのは平等性に欠けるという欠点もあります)。今回は、ニューヨーク市の公立学校のカリキュラムで、戦争がどのように扱われているかを調べたのですが、ニューヨーク市はアメリカでも非常に前衛的な場所であり、またニューヨークを含む東海岸には、イタリア系、ドイツ系アメリカ人のいわゆる第二次大戦中のthe Axis (枢軸国)にルーツを持つアメリカ人も多くいるので、そう言った人口統計的な要素もカリキュラムに反映されているかもしれません。 ニューヨーク州のSocial Studiesのカリキュラムで、第二次世界大戦が扱われるのはGrade 8 (中学三年)の最後のユニットの Grade 8 Unit 6 "America After World War ...
  • 全世界の日本の在外教育施設の在籍学生数 (2024年)

    全世界の日本の在外教育施設の在籍学生数 (2024年)
    海外教育振興財団(JOES)が発行していた「海外子女教育」という機関誌で「ただいま何人!?」というシリーズがあり、在外教育施設で学ぶ子女の在籍者数のレポートが掲載されていたのですが、「海外子女教育」は2023年に廃刊になってしまいました。「ただいま何人!?」シリーズは、どうなってしまうのかと気になっていたのですが、JOESのオンラインマガジンである"JOES Magazine"で無事引き継がれ、2024年の集計も以下のサイトで公開されています。 ただいま何人!? (在外教育施設在籍者数). 2024年1月3日. https://joes-magazine.com/articles/1098 2024年のデータ(調査時期は2023年)では、全世界で日本政府が支援している「日本人学校」と「補習授業校」の在籍子女数は48,291人とのことで、2022年のデータ(44,728人)と比べると微増しています。また、私立在外教育施設と区別される教育機関(「慶應義塾ニューヨーク学院」など)や文部科学省や外務省からの援助を受け取っていないが、日本語による教育を実施している教育施設(「ニューヨーク育英学園」など)に所属している子女が5,481人おり、こちらも2022年の数 (3,950人)と比べると、増加しています。やはり、2022年の集計はコロナ禍のために数が減ったのが、2024年では戻ってきたという感じでしょうか。 ニューヨーク近郊の在外教育施設のデータを「ただいま何人!?」の記事から抜粋しています。2022年のデータ (https://japanese-schools-newyork.com/?p=3727)と比べると傾向などが見えてくるかと思います。 ニューヨーク近郊の日本人学校、日本語補習授業校の傾向としては、以下のようなものが挙げられます。 ニューヨーク近郊の日本人学校、日本語補習授業校の学生の総数は増加傾向。2024年は育英学園(全日)が学生数を公表していないにもかかわらず、総数は2,891人 (2022年)から3,020人 ...
  • 日系メディアのデータベース: AAPI Media Map & Directory by CUNY School of Journalism

    日系メディアのデータベース: AAPI Media Map & Directory by CUNY School of Journalism
    ニューヨーク市立大学のJournalismの大学院で、アジア系アメリカ人のための英語以外の報道機関のデータベースを作成するプロジェクトがあります。全米で、635社のアジア系アメリカ人のための報道機関があり、そのデータベースが一般に公開され、オンラインの地図上ででも確認できるようになっています(右のメニューにある"Directory", "Map", Visualizations"をクリックするとみられるようになっています)。 日系アメリカ人(日本語メディア)に関しては、以下の34報道団体が記録されています。もし他にも日本語によるメディアがあるようでしたら、プロジェクトの担当者 (kavitha.rajagopalan@journalism.cuny.edu)まで連絡くださいとの事でした。 Anis Atlanta (Atlanta, GA) Chicago Shimpo (Chicago, IL) Cultural News (Los Angeles, CA) Daily Sun ...
  • 国際交流基金による継承日本語教育支援のグラント ($1,000-$5,000)

    国際交流基金による継承日本語教育支援のグラント ($1,000-$5,000)
    国際交流基金 (The Japan Foundation)は、日本語を外国語として教えている教員や学校に対して多くの支援を行ってきました。ただ、これまでは継承日本語は、外国語教育でないという理由で支援はされてきませんでしたが、2023年度から継承日本語教育支援の為のグラント ($1,000-$5,000)も開始したとのことです。詳しくはhttps://keishonihongo.org/2023/11/29/4748/で見られます。 これまで、継承日本語は、日本人学校などと同じように日系子女への教育と考えられてきたので、文科省などが担当されてきたという区分けがあったのですが、2022年6月27日に、公布、施行された「在外教育施設における教育の振興に関する法律」により、日本人学校や補習校を含んだ海外での日系子女の教育について大きな変化が(ゆっくりですが)起こっています。国際交流基金も、従来の「日本語を外国語として教えている」という垣根を超えて、日本語を継承語として学習する子女への支援も少しづつですが増やしてきており、今回、国際交流基金の大きな業務の一つであるグラントの対象に「日本語を継承語として教えている」教員や団体にも行う取り組みが始まったという感じです。 継承日本語向けのグラントは、基本的には、これまで交流基金が一般の日本語教育プログラム向けに行ってきた教材支援 ($1,000)、イベント支援 ($1,000)、プロジェクト支援 ($5,000)に準ずるものですが、従来のものとは違うグラントガイドラインが作成されています。継承日本語向けのグラントガイドラインですが、従来の国際交流基金のグラントと異なるのは以下の点です。 まず、大きく異なるのは、グラントガイドラインが日本語で作成されています。プログラムの内容は、既存の交流基金のプログラムと似ていますが、グラントガイドラインが日本語で新しく作成されているので、応募可能な条件などは既存のものと大きく異なっているようです。 応募できる団体は、「非営利の民間団体」で「過去1年以上継続的に日本語教育を実施」しているという事です。501(c)である必要があるのかどうかは不明ですが、明記されていないところを考えると、多くの継承日本語教室が正式に501(c)の認可をもらっていないという現状を考えた対応でしょうか。まだ実際にどのような運営になるのかは分かりませんが、そこら辺が曖昧になっているのは、多少はネゴシエーションの余地があるような感じがあり、期待できます。 応募できる団体の一つとして、「自助グループの場合は、複数の家庭で構成されていること」とあり、継承日本語教育の現状に理解のありそうな記載になっています。 以下、今回新しく開始された継承日本語向けのグラントと、従来の外国語としての日本語のグラントの応募要領へのリンクをリストしています。実際に見比べてみると、国際交流基金の継承日本語機関への歩み寄りの姿勢が垣間見得ます。 教材グラント ($1,000) 継承日本語教育関連図書寄贈事業: https://keishonihongo.org/karashi/wp-content/uploads/library.pdf Japanese Teaching Material Purchase Grant: ...
  • 国際交流基金の継承日本語ウェブサイト

    国際交流基金の継承日本語ウェブサイト
    全世界で日本文化、日本語教育の支援をしている国際交流基金 (The Japan Foundation)というところが、アメリカでの継承日本語教育の拡充のため、ウェブサイトを立ち上げました (https://keishonihongo.org/)。 まだ、内容的には、継承日本語教育のモデルとなる学校が紹介されていたり、ウェブサイト上の掲示板で情報交換ができたり程度のものですが、国際交流基金は、日本政府の方針が非常に強く影響される団体で、これまでは、海外での日本語教育支援では、日本語を第二言語として学ぶ人の支援だけを行なっており、継承日本語(日本語を家庭言語として学ぶ人)に関しては支援は全く行なっていませんでした。そういう点では、非常に意味深い変化だと思います。