日本語の学習適齢期との差

  • Mori, Y. & Calder, T. M. (2013). Bilingual Vocabulary Knowledge and Arrival Age Among Japanese Heritage Language Students at Hoshuukoo. Foreign Language Annals, 46, 290-310.
  • Calder, T. (2006). 北米東部地区補習校高校生調査 (Report on the high school students in the extra curricular Japanese schools in the East coast area in the U.S.). misc

Georgetown Universityの森先生とプリンストン補習校理事のカルダー先生による北米東部地区補習校高校生調査の報告です。調査対象者は、高校レベルの補習校に通っている子女で、15歳から18歳までの116名が調査に参加しています。渡米年齢を見ると、0-5歳が56名、6-9歳が14名、10-13歳が31名、14歳以降が15名とありますので、対象となった子女は皆さん平日はアメリカの学校に通っているものの、いわゆるアメリカ永住組の子女と日本への帰国組が混ざっているのだと思われます。

面白いと感じたのは、渡米年齢が0-5歳の子女 (おそらく永住組)で補習校を高校まで続けたとしても、日本語の語彙力は平均して-3.5歳のギャップがあるそうです。補習校を高校まで続けるのは本当に難しいですが、たとえそれをやり遂げ得たとしても、永住組の子女は年齢的には高校生になっても、日本語の読み物は中学レベルのものしか読めないということだと思います。あと、同じグループの英語の語彙力は平均して+1歳のギャップがあったそうです。これは、個人的にはバイリンガルになる事による利益というよりも、高校の補習校まで残られる永住組の子女は平均して家庭での教育関心が高く子供の英語での学習レベルも高いからだと思いますが、バイリンガルであることから母国語である英語のレベルも上がったという解釈も可能です。他方、14歳以降で渡米した子女 (おそらく帰国組)を見てますと、日本語の語彙力が-0.9歳、英語の語彙力が-5.2歳のギャップがあったそうです。子供たちにとっては、これまで日本語での教育だったのが突然英語での教育環境に変わってしまうと、かなり学習に障害がでるといのはよく聞く話です。この調査では、永住組の子女は補習校に通ったとしても英語、日本語共に語彙力は学習適齢期から落ちてしまうというのが如実に表れています。この日本語 (永住組にとっては母国語)での学習適齢期とのギャップが気になり、帰国組の子女がアメリカに滞在中も全日制の日本人学校で日本語での教育環境を選ぶ主な理由なのだろうと感じます。

他にも、英語、日本語での読書時間、会話時間などとの相関関係なども統計的に検出されているので、とても面白い論文だと思います。日本語で読みたい方は、2006年の調査終了後に調査参加者向けに日本語で報告書が作られていますので、そちらの方を入手されると良いかと思います。

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