不完全な言語習得か言語喪失か

  • Montrul, S. (2002). Incomplete Acquisition and Attrition of Spanish tense/aspect distinctions in adult bilinguals. Bilingual Language and Cognition, 5(1), 39-68.

スペイン語継承語話者のスペイン語の時制の獲得に関する研究です。

ほとんどの継承語話者の子女は、だいたい5歳くらいまでは家庭で継承語のみの環境におり、その後、英語でのK-12教育を受けて主要な言語が継承語から英語に推移するのがもっとも多いパターンです。言語習得理論の中では、一般的には、言語の基礎に関する知識は3-4歳くらいまでには習得されているとされるのですが、それが本当に継承語話者に当てはまるのかという問題を問いかけています。

もし不完全な言語習得であれば、継承語話者であるからといって、大人になってから継承語を習い始めても、同じ言語を第二言語として学習している非継承語話者とそれほど変わりなく言語習得をしていくと考えられます。他方、一度完全に習得した継承語をK-12の学習過程で喪失したのであれば、忘れてしまったものを復習するだけなので、大人になって継承語を再学習すれば母国語話者のようなレベルに到達することができると考えられます(第二言語として学習するよりも簡単に素早く母国語話者レベルに到達できる)。

最近の理論的な言語学の分野で継承語をやっている方は、この論文から始まった不完全な言語習得か言語喪失かの問題について考える研究が多く行われています。

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