日本の国籍法: 日本の国籍放棄に関する裁判

Sunday, June 27, 2021追記
国籍はく奪条項裁判についての情報を発信しているAMF2020が、2021年2月27日に行われた「国籍はく奪条項裁判の意味と今後について」という講演のレポートを公開しています。非常に詳しく国籍はく奪条項裁判の論点をまとめてありますので、おすすめです。
https://note.com/amf2020/n/n7a18770207ce



現在の日本の国籍法では、日本では基本的に多重国籍は認められず、重国籍者は日本国籍を失うのですが、その法律に関する訴訟への地裁判決が2021年1月21日 (木)に日本でありました。かなりメディアでも取り上げられていたので、すでにご存知の人も多いと思うのですが、地裁判決は、原告の主張を退け、現在の国籍法は「合理的」としました (The Japan Times記事 | 時事通信記事 | 産経記事 | 朝日記事 | 毎日記事 | 日経記事 | 読売記事)。

今回の訴訟が、多国籍保有者のことが多いアメリカ在住の継承日本語子女への、何らかの進展になるかと期待していたので残念です。今回の判決が非常に気になったので、すこし情報をまとめて見ようと思いました。

今回の訴訟の詳細については、この記事が非常に詳しく述べています。

まずは、原告側のウェブサイトがあり、そこで今回の判決の判決文などが公開されています。

あと、今回の原告側をサポートする「国籍法11条改正促進有志の会」というグループが、Change.orgに存在しているようでした。すでに4万人近くの署名が集まっているようです。

「国籍法11条改正促進有志の会」のページによると、主な主張点は、以下のような感じでした。

  • 国籍法11条は、明治32年(1899年)に定められた旧国籍法の項目をそのまま使っており、国際化が進む現状にはそぐわない。
  • 国籍法11条は、日本国憲法22条にある自由意思による国籍離脱(「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」)に関して違憲である。
  • 国籍法11条を現在改定することによって、国際化社会での日本への経済、文化、政治的効果が期待できる。

もう少し具体的な「国籍法11条」の問題点は、時事通信のこの記事にありました。この記事で挙げられていた、現在の国籍法の具体的な問題点としては、以下のようなものが挙げられています。

  • 移民や国際結婚の増加などで、海外に居住する日本人が、移住先の国籍がないことで、就労の機会や社会保障が受けられないことが多くなっている。
  • ここ60年で、欧米を中心に多くの国が多重国籍を認めるようになっている。1960年では、40%程度の国が多重国籍を認めていたが、2020年時点では、76%の国が多重国籍を認めている。
  • 国籍法11条のために、国際的に活躍する優秀な人材が、日本国籍を放棄しており、日本の人材流出になっている(ノーベル賞受賞者のカズオ・イシグロ、中村修二、南部陽一郎など)。

で、今回の判決ですが、今回の判決は、成人後に選択する機会があったケース(例えば、猫ひろしさんのケース)に関しての判決で、子供の時に自分の意思とは関係なく多重国籍になっている継承日本語子女の方(例えば、大坂なおみさんのケース)とは異なります。ですので、判決は、直接はアメリカで生まれ育った継承語話者の二重国籍とは直接は関係がありません。他方、自分自身や自分の子供が多重国籍になっているような人たち以外では、出生による多重国籍と、成人後の選択による多重国籍の違いなどはあまり理解されておらず、一般的な報道では、単純に「二重国籍問題」として扱われ、一般的には裁判所の二重国籍者に対する判断が下されたと思われています。

出生により多重国籍になった子女の多重国籍については、以下のような点があげられます。

  • 海外で出生、外国籍と日本籍の国際結婚の子女(いわゆる海外の日系人の子供)などで外国籍を20歳までに取得した人は、日本国籍と外国籍の多重国籍が22歳までは認められている。22歳になると、自己の意思によって日本国籍か外国籍を選択する必要がある。(国籍法でいうと、11条及び14条; 参考: The Japan Times 1 | The Japan Times 2)
  • 国際化がすすみ、海外で生活する在外日本人の数は、133.8万人にのぼる。外国籍と日本籍のを持つ外国在住の日系人子女の詳細な数はわからないが、非常に多くの子女が上記のような多重国籍状態になっていると思われる。
  • 最近の全世界での調査結果でもあるように、海外の日系人子女は日系アイデンティティーを確立しており、日系人としての意識を強く持っている(cf. 日本財団の「グローバル若手日系人意識調査」)。日本国籍を放棄することは、日系人として育ったアイデンティティーとの葛藤を生む。
  • 事実上、上記のような多重国籍者の日系人子女は、22歳を超えた後も、多重国籍者であることが多い。一部の著名人(大坂なおみさんなど)は、国籍選択を迫られることがあるものの、それ以外の人は国籍選択を行わないし、日本の在外公館(大使館など)が国籍選択を迫ることもなく、国籍法14条は事実上機能していない。

継承日本語に興味がある自分としては、もう少し、海外で多国籍保持者として日本人のルーツを持った日系人子女のことが、今回の国籍法の判決に関連してトピックに上がった方が良いのではないかと思いました。

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