NYCのGifted & Talented (G&T)プログラムについて

日本語の継承語教育とはあまり関係ないのですが、知り合いの方から、GTプログラムについて何か書いて下さいと言われたので、自分の経験を書いてみようと思います。ニューヨーク市でGTプログラムを考えている方の参考になれば幸いです。

あくまで個人の経験に基づく、個人的な意見なので、全てのGTプログラムがこんな感じだとは思いませんが、ある程度は正しい評価と思います。何か質問などがあれば一番下のコメント欄で質問ください。

  • GTには複数の種類がある
    GTは、学校の一部のクラスがGTのものと、学校全体がGTのものの二種類があります。学校の一部がGTの場合ですが、以下にある事情のために最近は広く広報活動などをしているところは少ないように感じます。学校の一部にGTがある学校のリストはここで見られます。学校全体がGT (city-wide GT)なのは、以下の5校です。この5校は、学校全体がGTなので、GTの入学方法などの情報はこちらからの方が入手しやすいかと思います。

  • 学校のカリキュラム自体はあまり変わらない
    GTの学校は教育のクオリティーが良いとか話はよく聞きますが、自分の個人的な経験では、教育カリキュラムとそれを教えるクオリティー自体はあまり他のパブリックスクールとは変わらないのではないかと思います。GTでも、例えば、十数年教えた経験のある先生が教えているクラスは素晴らしいですし、たまたま運悪く代理 (substitute)の先生が担当しているクラスになるとどんな良い先生でもやはりクラスの内容は経験の多い先生と比べると良くないことが多いです。あと、GT学校もパブリックスクールですので、基本的なルールは他のパブリックスクールと同じで、学校としてGTだからといって何か特別なことをやっていると言う事は無いような気がします。比較的大規模な研究でも、GT向けの特別カリキュラムを使っているというK-5のGTプログラムは少数派だとのことです。

  • GTの子供の標準テストの成績
    おそらくGTの学校のクオリティーが高いというのは、毎年、Grade 3-8まで行われるNYSのELAとMathの標準テストの結果から言われているのだと思います。標準テストの結果は毎年発表されるのですが (https://infohub.nyced.org/reports/academics/test-results)、GTのある学校は標準テストの結果が上位にあることが多いです。ただ、発表される標準テストの結果はLevels 1-4の型式で、数字としては、学校に在籍する子供の中でどの程度がLevel 3 (学齢の目標に達しているかどうか)もので評価されます。例えば、標準テストの学校のスコアが95%という場合は、子供のテストの平均点が95%だというわけではなく、在籍する子供のうち95%が学齢期の目標に達成しているという意味になります。ですので、標準テストの結果での学校の評価をすることは多いのですが、個人的には、この数値は良い学校を探す上では参考程度にした方がよいのではないかと思っています。学校の教育のクオリティーを評価するには、DOEが毎年行なっているSchool Quality Snapshot (https://infohub.nyced.org/reports/school-quality/school-quality-reports-and-resources)がおすすめです。School Quality Snapshotは、principal, teachers, parentsなどから匿名でのアンケートを行った結果を公表しているもので、結果を見てみると学校の様子がよくわかるようになっています。

  • 保護者の教育への関心は高い
    あくまで個人的な意見ですが、GTの学校の最大の特徴は保護者の教育への関心ではないかと思います。総じて保護者の教育に関する興味は高く、できるだけ子供の教育に関わったり、学校での教育について意見したりする保護者は多いです。多分、GTプログラムの入学システムは、通常の入学システムと異なっていて、保護者の方が子供の進学先について情報を集めたり、研究したりする人でないとGTへの応募もできないので、そういう保護者が集まるのではないかと思います。GTの保護者の方は、入学後でも子供の教育に関心が高く、また、先生も保護者の意見や相談などに対応できる先生が多いように思います。先生も、子供の学習傾向などの相談をすると、かなりの時間と手間をかけて返答してくれることが多いです。同様に、進路カウンセラーやソーシャルワーカーの人もやる気がある人が多いです。

  • PTAが活発
    上記の項目とも関係しますが、PTAの活動が非常に活発で、学校の教育方針などに保護者の声が反映されています。同じ教育者として見ていて、時折、かわいそうになるくらい保護者からの意見や批判があるので、こういう環境で教えられる先生は本当に日々研鑽が積める人じゃないと難しいだろうと思います。たぶん、そういう意味では、先生のクオリティーは高い傾向にあるのかもしれません。また、PTAの寄付とファンドレイジング活動が活発で、子供の学習のために資金を集めようという人が多くいます。PTAが集めた資金で、DOEでは購入できない先生向けの教材や、クラス物品、TAなどを学校に提供しているので、それもGTの利点だと思います。

  • 人種的には白人、アジア人が多い
    よく批判されることですが、明らかにGTの人種は他の学校と比べると偏りがあると感じます。学校がある場所にもよると思うのですが、いずれの場所でも、GTは大体白人とアジア人が多いです。他方、少し意外だったのは、保護者が移民一世の人(いわゆる英語を母語としない人)が多いと感じます。具体的に統計などがあるわけですし、ニューヨークは元々移民が多い場所なんで、GTの特徴かどうかはわかりませんが、継承語教育という視点からは、いつも面白いなと感じています。

  • 政治に左右されやすい
    GTプログラム自体がそれほど歴史が深くなく、GTのあるべき姿というものも確立しているわけではないので、GTの学校やプログラムの運営あは、ニューヨーク市や、学校での政治に左右されやすいです。例えば、Bloomberg市長の際に、GTの入学方法を市全体で統一して標準テスト(IQ testのような感じのテスト)を使用すると決めたのですが、de Blasio市長が標準テストへの批判を高め、de Blasio市政の最後には (2019年くらい)、GTプログラム全体を撤廃するという発表がされました。その後、市政を引き継いだAdams市長は、GTプログラムの撤廃を取り止めましたが、標準テストは使用せずに入学方法を決めるとの方針を示しています。ということで、結局、ここ数十年間でGTプログラムについては、一貫した方針というものはなく、政治の施政者の方針や考え方によって影響を受けやすいです。これは、おそらく学校のDistrict SuperintendentやPrincipalなどについても同じようなことが言えるのではないかと思います。

  • GTは政治問題化してしまった
    ここ数年のことなのですが、GTは、ニューヨーク市の公立教育の不平等差を象徴するプログラムとして批判が多くされています。特に、de Blasio市長のSchool Diversity Advisory Groupが2019年に発表した、“Making the Grade II”というレポートはメディアなどで多く取り上げられ、白人とアジア人が多くを占め、ヒスパニックと黒人が少なすぎるGTは差別的なプログラムだということが多く言われるようになりました。個人的には、ニューヨーク市の公立教育の不平等の問題は、GTが問題なのではなく、ニューヨーク市の公立学校システム全体の問題だと感じるのですが、残念ながら、「ニューヨーク市の公立教育の不平等=GT」という構図はできてしまっており、ニューヨーク市の公立教育の不平等をなくすには、GTを撤廃しないといけないという意見が大多数を占めています。他方、GTをサポートする人は人種問題には関心のない白人やアジア人だという雰囲気があります。GTは、ニューヨーク市の公立教育の不平等問題の最大のトピックになってしまっているので、子供がGTに通うことになると、そういった議論に否応なく参加することになります。

    教育に熱心なアジア系アメリカ人を批判するのは珍しいことではなく、1990年くらいから始まったアジア系アメリカ人のModel Minority Mythは、さまざまな形でアジア系アメリカ人を批判するモデルとなってきました。個人的には、NYCのGTも、Model Minority Mythの対象になってしまったのは残念に感じます。

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たみかか

為になる情報をいつも有難うございます。5歳からG&T学校に通うのは、勉強漬けでストレスにならないか心配なのですが、その点はどうでしょうか?

たみかか

保護者の声が大きく反映する学校なのですね。安心しました。有難うございます!