ニューヨークの日系人の人口統計 (1850年から2024年まで)

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Wikipediaに、Japanese in New York City (https://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_in_New_York_City)なるページを見つけて読んでみたのですが、結構、情報が偏っていたので、少しずつ事実を調査して、いずれこのWikipediaのページも改訂しようと思っています。

まずは、1850年から2024年までに、ニューヨークにいた日系人の数を調べてみました。大まかな内容としては、以下のような感じです。

  • ニューヨークの日系人の数の全体的な歴史は、以下のように大きく分けられます。
    • 徳川幕府の鎖国政策のため、1960年の万延元年遣米使節の派遣までは、ニューヨークへの正式な移民はなかった。他方で、アメリカにはジョン万次郎やジョセフ彦のように、漂流など、いろいろな経緯でアメリカに在住していた日本人はいた模様です。
    • 1870年代には、1872年に岩倉使節団が日本との貿易の交渉をし、1876年には、民間のビジネス団として森村豊、新井領一郎などが、ニューヨークでの貿易業などを始めた。また、津田梅子や新島襄などの留学生も増えた。
    • ニューヨークの日系人の特徴として、ビジネスや外交官など、日本でのエリート層が多く、彼らは非移民のビザでニューヨークに滞在していた。他方で、エリート層だけでなく、西海岸の労働者移民の中からニューヨークに移動する者もおり、労働者階級の人たちは、主にBrooklyn Navy Yardで軍関係の雑用などをしていた。1900年代に、軍への仕事から外国籍の労働者が排除され始めると、労働者階級の日系人は学校(高校)に通いながら雑用係として働くようになった。
    • 1882年には、the Chinese Exclusion Actなどアジア人移民を取り締まる法律などができたり、西海岸の日系コミュニティーでは、アジア人への迫害が増えたが、Sawada (1996)やInouye (2018)などの研究によれば、非移民として滞在していたニューヨークの日系人は迫害の対象となることは少なかった。他方で、労働者階級の日系人は、中国からの移民と同様に迫害にあった。
    • その後、1907年に日本とアメリカの間で「紳士協定(Gentlemen’s Agreement)」が制定され、日本から労働者として移民する日本人の数が制約された。他方で、1908年から1920年頃には、多くの日本人女性が「写真花嫁(picture bride)」として移民する。また、ニューヨークは、非移民のステータスで滞在している、いわゆるエリート層の日系人が多かったので、「紳士協定(Gentlemen’s Agreement)」の影響も西海岸よりは大きくなかった。
    • 1924年のthe Immigration Act of 1924制定により、アジア人、ヨーロッパ南部や東部からの移民への迫害が強まる。また、1923年の関東大震災での日本国内での混乱が多くあり、アメリカへの移民の数が減少し、ニューヨークの日系人の数にも影響した。
    • 1931年の満州侵攻から、日本とアメリカが敵対関係になる。1941年のパールハーバーへの奇襲により、日本は完全に米国の敵国となり、ニューヨークの日系人の中にも、Japanese Internment Campへと収容される人も多くいた。
    • 1945年の戦後直後に、米国に移民を始めた人の中には、日本に占領軍として滞在していたアメリカ兵の妻として移民する「戦争花嫁」がいた。
    • 1960年には、日本からの駐在、留学などの非移民の日系人の数が再び増え始めた。1964年のニューヨーク万国博覧会には、日本のブースも展示されるなど、ニューヨークの日本人は再び増加を見せた。また、1965年のHart-Celler Actにより、米国への移民が、日本を含む多くの国で可能となったのを皮切りに、南米、アジア、中東などから多くの移民がアメリカを訪れた。これまで、ニューヨークの日系人は、ビジネスや外交官などのエリート層が中心だったが、1965年以降はエリート層以外の移民も増え始める。
    • 1980年のバブル経済により、ニューヨークでは日本からの駐在者、留学生が増加した。その後、バブルが崩壊し、日本からの駐在者の中からアメリカへの永住者になったり、日本からの留学生が、そのままニューヨークで移民として滞在するようになる。ニューヨークでは、いわゆる「帰国組」と「永住組」の二層の日系コミュニティーができた。
  • 「ニューヨークにいる日本人の数」というのは、数えている人によって定義がかなり異なる。例えば、ニューヨーク市(New York County, Kings County, Queens County, Bronx County, and Richmond Countyの5区)だけの数を調べている調査もあれば、日系人が多いと言われるWestchester CountyやLong Islandなどを含めるために、ニューヨーク州全州の数を数えているものもあります。また、多くの調査が、ニューヨーク州だけでなく、ニュージャージーの日系コミュニティーが多い地域や、コネチカット州を含む調査もあります。なので、一つの調査の数を他の調査の数と比べることは難しいです。
  • 「日系人」の定義も曖昧で、例えば、日本政府からの情報に基づいた調査では、日本からのパスポートの発行数や在住届に基づく数などがデータになるので、基本的には日本の国籍を有する人や日本で生まれた人が「日系人」となっています。アメリカからのデータに基づく調査でも、同様に日本を母国とする人の数を調べているものもありますが、民族として「日本人」を選択している人を数える調査もあります。

Sawada (1996) & Inouye (2018)

1870年代から1930代のニューヨークの日系人の記録については、Sawada (1996)と、Inouye (2018)が詳しいです。Sawada (1996)は、日本やアメリカからの統計の情報を集め、ニューヨークにいた日系人数だけでなく、男女比や出身地なども詳しく述べています。

  • Sawada, M. (1996). Tokyo Life, New York Dreams: Urban Japanese Visions of America, 1890-1924. Berkeley, CA: University of California Press.

  • Inouye, D. H. (2018). Distant Islands: The Japanese American Community in New York City, 1876-1930s. Boulder, Colorado: University Press of Colorado.


Sawada (1996)で紹介されている統計の中から、日系人の数に関するものです。西海岸に比べるとニューヨークの日系人コミュニティーは非常に小さく、20世紀初頭は1000-3000人程度での推移を見せています。また、20世紀初頭のアメリカ日系人に関するいろいろな文献にあるように、ニューヨークの日系人も男性が多く、女性は1910年-1920年くらいの「写真花嫁」に増えています。Sawada (1996)では、3つの違うデータを集めているのですが、どのデーターでも大体の数は同じような感じです。

Sawada (1996) Appendix 2 Table 5 "Japanese Population in New York City, 1890-1924.

YearMizutaniJapanese-MaleJapanese-FemaleAmerican_USAmerican_NYC
1890123164
1891600
189640828
189759626
189861939
1899
19001,09773286311
190197456
190297764
190387
19041,83060
19052,067121
19061,96687
1907
1908
19093,000
19101,1741,037957
19111,788170
19121,962186
19131,976187
1914
19152,552246
19162,386 (total)
1917
19183,320284
19193,735318
19204,6523,2866402,3122,073
1921
19223,013925
1923
19242,602745
- Mizutani: 「紐育日本人発展史」 (1921)からの情報

- Japanese Figures: 「日本帝国統計年鑑 1891-1924」からの情報
- American_US:: "Department of Commerce, Bureau of the Census, Census of the United States, 1890-1920."
- American_NYC: Walter Laidlaw (1932) "Population of the City of New York, 1890-1930"

日本外務省「海外在留邦人数調査統計」

日本の外務省も、定期的に海外に在住する日本人の数を調査して、1997年から「海外在留邦人数調査統計」として公開しています (https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/index.html)。

「海外在留邦人数調査統計」で調査されているのは、在外公館(日本国大使館、総領事館、領事事務所)に提出されている在留届を基礎資料として調査され、対象は、滞在期間が3ヶ月以上の、海外に在留している日本国民 (重国籍者を含む)です。また、滞在者を、期限を定めて居住している「長期滞在者」と、期限を定めずに居住している「長期滞在者」に区別しています。

外務省「海外在留邦人数調査統計」では、ニューヨーク都市圏の在留邦人数は、2000年初頭をピークに(2003年 62,279人)減少を続けています。2025年には前年からやや回復したものの、38,251人と、最も日本人が多かった時と比べて半減しています。下記でも述べていますが、これが実際の日本人コミュニティーの増減を表しているかというと、からなずしも正しい指標とは言えません。アメリカの国勢調査では、ニューヨーク市の日系人は増加しているので、おそらく、このデータが表しているのは、ニューヨークに住む日本人が、いわゆる「移民一世」世代からアメリカ国籍を有する「移民二世」など、必ずしも日本国籍を有さない日系人に移行しているのだと思います。

外務省 海外在留邦人数調査統計 (1997-2025)

対象地区合計長期滞在者永住者
1997ニューヨーク55,821
1998ニューヨーク56,768
1999ニューヨーク56,839
2000ニューヨーク57,780
2001ニューヨーク59,114
2002ニューヨーク60,939
2003ニューヨーク62,27949,74812,531
2004ニューヨーク60,45147,54912,902
2005ニューヨーク59,28546,36012,925
2006ニューヨーク首都圏61,36448,43912,925
2007ニューヨーク都市圏51,70540,06811,637
2008ニューヨーク都市圏49,65938,32611,333
2009ニューヨーク都市圏56,17444,67711,497
2010ニューヨーク都市圏57,42944,81912,610
2011ニューヨーク都市圏54,88542,37512,510
2012ニューヨーク都市圏53,36541,20212,163
2013ニューヨーク都市圏49,55638,58910,967
2014ニューヨーク都市圏43,10830,11912,989
2015ニューヨーク都市圏44,63629,39315,243
2016ニューヨーク都市圏46,917
2017ニューヨーク都市圏46,137
2018ニューヨーク都市圏47,563
2019ニューヨーク都市圏40,496
2020ニューヨーク都市圏39,850
2021ニューヨーク都市圏39,932
2022ニューヨーク都市圏38,263
2023ニューヨーク都市圏37,414
2024ニューヨーク都市圏37,345
2025ニューヨーク都市圏38,251
外務省が毎年発表する「海外在留邦人数調査統計」の統計 (https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/index.html)をまとめたもの

アメリカの国勢調査 (U.S. Census and American Community Surveys)

アメリカの国勢調査では、人口数だけでなく、民族や家庭言語などの情報も集められています。U.S. Censusは10年ごとに行われ、アメリカにいる全員から回答を回収しています。2005年から始まったAmerican Community Surveyは、毎年行われ1-5%のサンプルからの回答を回収し、それを統計的に分析して全人口の傾向を判断しています。

国勢調査なら、昔まで日系人の数が調査できるだろうと思われるかもしれませんが、国勢調査の質問の内容や、地域の分け方などは時折変更になり、1900年くらいまで遡ろうとすると、かなりの労力をかけてcrosswalkという内容の違うデータを分析できるようにするファイルを作る必要があります。これが結構大変で、しかも、20-30年に一度くらいの頻度で大きな変更があるので、1900年まで遡るのはかなりの手間と労力がかかります。

Gibson & Jung (2002)によるU.S. Census Bureauのレポートは、そういったcrosswalkを行った上で、1790年から1990年の間の人口統計を人種、民族によって分析したものです。残念ながら、ニューヨーク都市圏だけを対象とした区分がないので、ニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルバニア州などの州ごとの分析しかありませんが、統計上は一番信頼性が高いデータだと思います。

  • Gibson, C. & Jung, K. (2002). Historical Census Statistics on Population Totals by Race, 1790 to 1990, and By Hispanic Origin, 1970 to 1990, for the United States, Regions, Divisions, and States. US Census Bureau. Report No. 56. Washington, D.C..

Population of Japanese race in New York State, New Jersey State, and Pennsylvania State between 1870-1990

YEARNew YorkNew JerseyPennsylvania
1870-101
18801728
18901482232
19003545240
19101,247206190
19202,686325255
19302,930439293
19402,538298224
19503,8931,7841,029
19608,7023,5142,348
197020,3515,6815,461
198024,5249,9054,665
199035,28117,2536,613
From: Table c-series in Gibson, C. & Jung, K. (2002). Historical Census Statistics on Population Totals by Race, 1790 to 1990, and By Hispanic Origin, 1970 to 1990, for the United States, Regions, Divisions, and States. US Census Bureau.

最後に、U.S. Census and American Community Surveysから手作業で情報をとった統計です。Census/ACSでは、race/ethnicityはいろいろな方法で選別できるのですが、今回は以下の3通りのものを使いました。

  • Japan-born: BPL or BPLD contains Japan.
  • Japanese race: RACE or RACED contains Japanese.
  • Japanese ancestry: ANCESTR1, ANCESTR1D, ANCESTR2, or ANCESTR2D contains Japanese. Available only after 1980.
  • Any Japanese origin: The total counts of individuals who meet any of the conditions above

場所に関しては、ニューヨーク市の5つのcounties (Kings, New York, Queens, Richmond, Bronx)のほかに、次のニューヨーク市周辺の地域も含めています: Fairfield County (CT), Suffolk County (NY), Orange County (NY), Putnam County (NY), Rockland County (NY), Westchester County (NY), Bergen County (NJ), Essex County (NJ), Hudson County (NJ), Middlesex County (NJ), Union County (NJ), and Nassau County (NY)。1960年は、なぜかcountyに関する情報が他の年と大きく異なっており、1960年だけは少し他の年と異なる地域となっていますが、ニューヨーク市近郊の日系コミュニティーが多い地域で、大きな違いはありません。

People of Japanese Origin in the New York Metropolitan Area

YEARCensus/ACSAny Japanese originJapan-bornJapanese ancestryJapanese race
18501850 1%0000
18601860 1%0000
18701870 1%0000
18801880 1%0000
19001900 1%6036030101
19101910 1%1,7071,50701,507
19201920 1%1,6041,60401,604
19301930 1%3,5333,23003,432
19401940 1%3,7002,80002,500
19501950 1%3,8161,97003,033
19601960 1%11,9587,473010,563
19701970 Form 2 Metro20,20010,700017,900
19801980 1%29,70017,60025,50025,200
19901990 1%44,33130,00238,05439,224
20002000 1%46,18429,74638,39936,651
20062006 ACS61,03538,77852,62346,417
20112011 ACS49,96329,45942,66738,237
20162016 ACS72,30940,85853,43060,502
20212021 ACS70,93036,54846,64758,624
20222022 ACS73,67437,22750,38665,142
20232023 ACS77,39736,96752,09867,092
20242024 ACS77,84735,12755,88270,054
Using IPUMS USA Microdata, 1850-2024

上記の通り、Japan-bornの数に関しては、2010年代をピークに減少傾向にありますが、Japan-born以外の日系人の定義 (Japanese race or Japanese ancestry)では、増加していて、ニューヨークの全体的な日系コミュニティーは増加していることが伺えます。ニューヨークに日本移民が始まってから続いてきた、ビジネスや外交官などのいわゆるエリート層の非移民の日系人(いわゆる「帰国組」)の数は、日本の人口や経済力が弱まるにつれて減少していますが、1960年以降の「永住組」の子女などが増加していて日系コミュニティーを支えている傾向にあると言えます。

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