ニューヨーク市の最近の英語以外の言語の変遷を調べる機会があり、その中に日本語のデータもあったので、それをまとめてみました。今回利用したのは、U.S. Census Bureauが毎年行っているAmerican Community Surveys (ACS)のデータです。ACSは、10年事に行われるcensus (国勢調査)とは別に、毎年、数%のサンプルとして抽出された人だけが返答する調査で、2005年より行われました。
Stevens (1999)で詳しく述べられていますが、アメリカの長期的な言語変遷を調べるのは容易ではありません。大きな理由としては、国勢調査で言語に関する質問が少ない、あるいはなかった期間が多く、また、言語の質問も何十年か毎に変更されていくので、継承語のように世代をまたぐ変遷を通時的に調べるのが難しいです。また、長い間、”race” (民族)に関する質問と”Mother Tongue”に関する質問は相関性があると考えられていたり (例えば、ドイツからの移民と回答したら、「ドイツ語」が母語であるのような感じ)、”Mother Tongue” (母語)という定義が曖昧な用語で言語に関する質問が聞かれていたり、回答の選択肢が5-6種類の言語に限られていて、他の言語は全て”other”に分類されたりと、かなりの予想と憶測を使わないと利用できないような言語データになっています。
1980年から、ようやく、言語に関する質問が標準化されてきて、以下のような3ステップの質問になりました。
- Do you speak a language other than English at home?: Yes / No.
- If yes — what is that language?: [Write in — Respondent names the non-English language spoken at home (e.g., Spanish, Chinese, Korean, etc.)]
- How well does this person speak English?: Options: “Very well,” “Well,” “Not well,” “Not at all.”
変更があったのは、これまで利用されてきた”Mother Tongue”などの言語から、家庭言語 (home language)に質問が変更されたことと、英語以外の言語に関しては多くの言語(確か20種類くらい)の言語から選べるようになって、また、その中に対象言語がない場合は、otherとして言語の名前を記載するようになったことです。また、2005年にACSが導入されてからは、言語に関する質問は10年後のcensusではなく、毎年行われるACSで調査されるようになりました。
Census/ACSの言語の質問は、まだまだ完璧とは言いづらく、言語の定義が曖昧であったり(例えば、中国語はMandarinを指すのか、もしそうであれば、Cantoneseなどの他の中国語の方言はどうなるのかなど)、家庭で3言語以上が使われている状況が把握しづらいことや、話者数が少ない少数言語がACSのサンプルから漏れたりすることなど多いです。でも、1980年からは、census/ACSを使ったら、なんとか調査はできるかなという感じです。
上記の通り、今回は2005年から行われたACSのデータを使って、ここ15年間のニューヨーク市の言語の変遷を調べました。日本語に関するデータを地図化したものを以下に表示しています。
一番古いデーターは、2005年から2010年までの5年分のデーターです。日本語を話す人は、Upper West, Upper East, Chelsea, Murry Hill, Greenwich Village, Astoria & Long Island City, Sunnyside & Woodside, Forest Hillsなどに2,000人程度づつ住んでいました。
2010-2015年では、日本語話者の分布は大きくは変更しませんでしたが、全体的に数が減り、2,000人の規模を保っているのはMurry Hillだけです。
2015-2020年には、日本語話者の分布にも変化がみられ、Upper East Side, Sunnyside & Woodside, Forestに日本人が集中する一方、その他の場所では人が拡散し、多くの地域に数の少ない日本語話者が住む傾向がみられます。
最新のデータは、2018-2023年のデータですが、上記の傾向は続いているようで、Upper East Sideには2,500人近くの日本語話者が住む一方、他の地域では、1,000名程度の日本語話者が幅広い地域で住んでいるという傾向がみられます。
U.S. Censusの言語データーの調査は、家庭で日本語を話している人の数を調査するものですので、この変動パターンが、日本から短期滞在で来る短期滞在者による変化なのか、あるいは、日本語を継承語として話すいわゆる日系アメリカ人の人たちによる変動なのかは分かりませんが、全体として、一部の地域に集中して住むような形態から、ニューヨーク市のあらゆる地域に幅広く住む傾向に変わりつつあるようです。





