継承日本語話者の漢字能力とその話し言葉への影響

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  • Matsunaga, S. (2003). Instructional Needs of College-Level Learners of Japanese as a Heritage Language: Performance-Based Analyses. Heritage Language Journal, 1-18.

ちょっと古い研究ですが、カリフォルニア州立大学の日本語のクラスで、継承日本語話者と、母語が漢字圏の日本語L2学習者、母語が漢字圏ではない日本語L2学習者のリーディングとオーラル能力を比較した研究です。

研究対象者は40名(HL: 14名、Kanji L2: 11名、non-Kanji L2: 14名)であり、おそらく一つの大学の学生による規模の研究ですが、いわゆる継承日本語話者の言語能力の優位性に疑問を投げかける内容になっています。漢字が含まれる2つのパッセージでわからない漢字の数を数え、その後にパッセージについて話すという形式の実験で、継承日本語話者の一般的なオーラル能力は予想通りL2グループよりも高かったのですが、漢字の理解率はKanji L2グループ(母語が中国語のL2学習者)の方が高かったそうです。また、漢字が含まれたパッセージを読むオーラル能力では、継承語グループよりもKanji L2グループの方が優れていたという内容です。

日本語の学習に関する研究では、漢字の習得に関するものが多くありますが、漢字の習得に関しては継承日本語話者よりも、漢字圏の母語からのトランスファーの方が有利であるということだと思います。基本的に、言語学は書き言葉よりも話し言葉を中心に研究されるので、漢字の習得には、一般的に言われる継承語話者の言語学的な優位性がないというのは予想できる結果だと思います。他方で、ある程度の言語運用を行おうとすると、話し言葉だけでなく、書かれた文章について話すことや、聞いたことを書き取るなど、読む能力と話す能力が同時に運用されることも多いので、日本語のように書き言葉が複雑な言語(中国語やアラビア語など)に関しては、継承語話者の優位性について留意する必要があるかもしれません。

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