- Nishikawa, T. (2019). 継承語の言語的特徴. In Kondo-Brown, Kimi, Sakamoto, Mitsuyo, & Nishikawa, Tomomi (Eds.), 親と子をつなぐ継承語教育: 日本・外国にルーツを持つ子供. (pp.126-127). Tokyo, Japan: くろしお出版.
「親と子をつなぐ継承語教育」の2ページのコラム論文ですが、継承語として話される日本語の言語的特徴がうまくまとまっています。最初に、継承語言語学の研究で知られるMontrul (2016)による、継承語全体の言語学的特徴を以下のようにまとめています [日本語に関するコメントは自分の考察です]。
- 語彙: 家庭で使われる語彙の理解度が高いが、学校などで使われる語彙に関する理解度は低い (p.48) [日本語ですと、大まかには和語(訓読みの言葉)は家庭などで使われたりすることが多いですが、学校などで利用される語彙は漢語(音読みの言葉)が多いです。また、漢字などの言語表記は、日本語を含む非アルファベット言語では、継承語話者の大きな課題になっています。]
- 形態素: 動詞や名詞の活用で、形態素の省略や省略が多い。継承語では、形態素の簡素化が最も影響が多いとされる。 (p.54) [日本語、韓国語、中国語など活用が元々文法上重要な役割を果たしていない言語に関しては、どのような影響があるのかは、継承日本語研究の大きな研究課題です。]
- 統語: 基本語順を好む傾向や、受け身や関係節などの理解や算出が困難。 (p.82) [これも形態素と同様に、元々語順が一部の制約を除いて変更できたり、受け身と関係詞などの文法も英語などの言語と比べると違った制約がある日本語でどのような影響があるのかは研究課題です。]
- 音声: 継承語話者が最も優れている言語分野。母語話者とほぼ変わらない能力を持つ継承語話者も多い。 (P.82)
コラム上では、継承日本語の言語的特徴に関しての研究が以下のようにまとめられています。
- 継承日本語話者は、母語話者と比べて漢語の使用割合が少ない (Kanno, et al., 2008)。また、敬語や使役表現を苦手とするが、授受表現はよくできていた (Nagawasa, 1995)。
- 基本的な助詞や文型が中学生になってもできていない (Kataoka, et al., 2005)
- 自動詞の非対格動詞 (e.g., 来る、入る、落ちる)と非能格動詞 (e.g., 遊ぶ、踊る、泳ぐ、走る)について、母語話者と継承語話者は二つの分類ができているが、第二言語話者は区別がつけられていない (Fukuda, 2017)
Fukuda, S. (2017). Floating numeral quantifiers as an unaccusative diagnostic in native, heritage, and L2 Japanese speakers. Language Acquisition, 24(3), 169-208.
Kanno, K., Hasegawa, T., Ikeda, K., Ito, Y., & Long, M. H. (2007). Prior language-learning experience and variation in the linguistic profiles of advanced English-speaking learners of Japanese. In D. M. Brinton & O. Kagan (Eds.), Heritage Language Acquisition: A new field emerging. (pp. 165-180). Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum.
片岡, 裕子., 越山, 泰子., & 柴田, 節枝. (2005). アメリカにおける補習校の児童・生徒の日本語力及び英語力の習得状況 (Japanese and English Language Ability of Students in Supplementary Japanese School in the U.S.). 国際教育評論, 2, 1-19.
Montrul, Silvina (2016). The Acquisition of Heritage Languages. Cambridge, Mass.: Cambridge University Press. .
Nagasawa, F. (1995). L1, L2, バイリンガルの日本語文法能力 (Comparative grammatical competence among L1, L2, and bilingual speakers ofJapanese). 日本語教育, 86, 173-189.