日本語について: 「学校文法」と「日本語教育文法」の違い (品詞と活用)

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このポストの続きで、今日は、学校文法と日本語教育文法の品詞の分類方法について書いてみようと思います。

まずは、「学校文法」の品詞の分類です。以前も書きましたが、「学校文法」は日本で日本語を母語として学ぶ人が学習する文法で、継承日本語の中では、保護者が理解している日本語文法ということになります。「学校文法」では、自立詞か付属辞か、活用があるか、などの特徴により、「動詞」、「形容詞」、「形容動詞」、「名詞」、「副詞」、「連体詞」、「接続詞」、「感動詞」、「助動詞」、「助詞」に分類されています。

大分類 特徴 品詞
自立語(詞) 活用がある 述語になる(用言) 動詞
形容詞
形容動詞
活用がない 主語になる(体言) 名詞
連用修飾語になる 副詞
連体修飾語になる 連体詞
接続語になる 接続詞
独立語になる 感動詞
付属語(辞) 活用がある 助動詞
活用がない 助詞

おそらく、学校文法と日本語教育文法(継承日本語語話者や日本語を外国語として学習する学習者の文法)の違いで、一番頻繁に例にだされるものは「形容動詞」の扱いだと思います。学校文法の「形容動詞」は、日本語教育文法では形容詞の一種として扱われ、「ナ形容詞」として紹介されることが通常です。ですので、日本語教育文法では「形容動詞」というのは存在しません。また、「連体詞」は一つの品詞としては使われず、「指示詞」(こそあど)などのグループの一部などとして紹介されています。それに加えて、日本語教育文法では「助動詞」は品詞として扱われることは少なく、「テンス」や「ムード」など文型として紹介されます。益岡・田窪の「基礎日本語文法」では、連体形などの活用語尾と接続する「助動詞」と語幹に接続する「接辞」の区別をつけていますが、「接辞」も日本語教育文法では紹介されることはなく、それぞれが文型として紹介されます。

学校文法 日本語教育文法 注記
動詞 動詞
形容詞 イ形容詞
形容動詞 ナ形容詞
名詞 名詞
副詞 副詞
連体詞 なし
接続詞 接続詞
助詞 助詞 日本語教育文法では、副助詞などは「かかり助詞」として独立して紹介されることもあります。
感動詞 感動詞
助動詞 助動詞 / NA 日本語教育文法では、助動詞/受身や可能などは活用として紹介されることもあります。
指示詞
判定詞 / 繋辞 / コピュラ 「だ」と「です」の取り扱いは、学校文法でも日本語教育文法でも曖昧です。

「学校文法」と「日本語教育文法」の違いは、品詞の考え方以外にも、活用という考え方についてもかなり違っています。

学校文法においては、活用は非常に重要な文法要素で、例えば、品詞の分類なども、詞(自立語)と辞(付属語)の大まかな分類に加えて、それぞれの品詞が活用するかどうかで品詞の分類を行なっています(動詞、形容詞、形容動詞は活用する自立詞、助動詞は活用する付属語)。

動詞の活用については、学校文法では、未然形、連用形、終止形、連体形、仮定形、命令形が使われています。これは、古典/文語の活用形式(未然形、連用形、終止形、連体形、已然形、命令形)との繋がりを重視したもので、活用の分類は、活用による意味や機能の違いによって行なわています。例えば、未然形は否定 (-ナイ)や推量(-ウ)など、まだ事象が起こっていないことを表す形式であり、連用形は用言 (主に助動詞)に続くことができる形式などです。

動詞の分類に関しては、語幹の終わりによって「五段活用」、「上一段活用」、「下一段活用」、「カ行変格活用」、「サ行変格活用」に分類されています。

以下、学校文法の動詞の活用の一覧表です。

活用形 五段活用 上一段活用 下一段活用 カ行変格活用 サ行変格活用
飲む 起きる 食べる 来る する
語幹
未然形 (-ナイ,-ウ) さ、し、せ
連用形 (-マス, -タ, -テ) み、ん
終止形 (-。) きる べる くる する
連体形 (-トキ, -ノデ) きる べる くる する
仮定形 (-バ) きれ べれ くれ すれ
命令形 (-!) きよ、きろ べよ、べろ こい せよ、しろ

学校文法では、動詞のほかに、形容詞(日本教育文法でいう「イ形容詞」)、形容動詞(日本教育文法でいう「ナ形容詞」)、判定詞も規則的に活用します。以下、学校文法の形容詞、形容動詞、判定詞の活用の一覧表です。「判定詞」(いわゆる「だ」と「です」)に関しては、学校文法でも日本教育文法でも、その分類は曖昧です。特に日本語教育文法では先生によって考え方が全く異なり、中には名詞の活用形だという人もいれば、「繋辞/コピュラ」として紹介する人もいます。学校文法でも判定詞の分類は議論されていますが、ここでは一応「判定詞」として紹介しています。

活用形 形容詞 形容動詞 判定詞
元気だ 元気です です
大きい 元気な 元気な です
語幹 おおき 元気 元気
未然形 (-ウ) かろ だろ でしょ だろ でしょ
連用形 (-タ, -ナイ, -ナ) かっ、く だっ、で、に でし だっ、で でし
終止形 (-。) です です
連体形 (-トキ, -ノデ) です です
仮定形 (-バ) けれ なら なら
命令形 (-)

上記の通り、学校文法では活用が意味や機能の違いによって行なわているため、音声上はほぼ同一のものが存在します(例えば、動詞の終止形と連用形など)。また、活用は日本語母語話者が直感的に意味や機能の違いが分かることを前提としているので(例えば、「飲む」が-ナイに続く場合は、どのような形になるかは、ネイティブしかわからない)、日本語学習者には非常に学習しづらいものになっています。

そこで、日本語教育文法では、意味や機能の違いによる分類ではなく、音声による分類によって活用形を決めています。また、動詞の分類に関しても語尾が子音で終わるもの(学校文法でいう「五段活用」)と語尾が母音で終わるもの(学校文法でいう「上一段活用」、「下一段活用」)のように音声を基準に考え、分類も不要なものは全て除かれています。例えば、「カ行変格活用」や「サ行変格活用」など不規則な活用をするものは、どちらも「不規則動詞」として分類されています。

以下、日本語教育文法の活用の一覧表です。

う動詞 (u-verb) / I類動詞 / 子音動詞 る動詞 (ru-verb) / II類動詞 / 母音動詞 不規則動詞 (irregular verb) / III類動詞 イ形容詞 (i-adjective) ナ形容詞 (na-adjective) 名詞+判定詞 (noun + copula)
飲む 食べる 来る 楽しい 元気な 学生だ
語幹 / stem nom- tabe- tanoshi- genki- gakusei-
辞書形 / 普通形
dictionary form, plain form
nom-u tabe-ru ku-ru tanoshi-i da da
ナイ形 / 否定形
negative form
nom-anai tabe-nai ko-nai tanoshi-kunai denai (jyanai) denai (jyanai)
マス形 / 連用形
masu form, long form, renyoo form
nom-i (masu) tabe-(masu) ki (masu) tanoshi-ku ni ni
テ形 non-de tabe-te ki-te tanoshi-kute de de
タ形 non-da tabe-ta ki-ta tanoshi-katta datta datta
タリ形 non-dari tabe-tari ki-tari tanoshi-kattari dattari dattari
タラ形 non-dara tabe-tara ki-tara tanoshi-kattara dattara dattara
バ形 nom-eba tabe-reba ku-reba tanoshi-kereba deareba deareba
意向形
volitional form
nom-oo tabe-yoo ko-yoo
命令形
imperative form
nom-e tabe-ro ko-i
受身形
passive form
nom-areru tabe-rareru ko-rareru
使役形
causative form
nom-aseru tabe-saseru ko-saseru
可能形
potential form
nom-eru tabe-rareru ko-reru

指導上は、動詞などの意味や機能(「未然形」など)を紹介せずに、音声だけで活用を紹介できるので、日本語学習者にとってはわかりやすい活用になっています。学校文法と日本語教育文法の活用の比較表を見てみると、いかに、日本語教育文法が音声上の違いに基づいた活用になっているかがよくわかります。

学校文法 日本語教育文法
未然形 ナイ形 飲まない
未然形 意向形 飲もう
受身形 飲まれる
使役形 飲ませる
連用形 マス形 飲みます
連用形 テ形 飲んで
連用形 タ形 飲んだ
終止形 辞書形 飲む
連体形 飲む
仮定形 バ形 飲めば
命令形 命令形 飲め

他方で、日本語教育の現場から発展していった文法分類ですので、教え方、特に使う教科書によって活用の考え方が違ってきます。例えば、上記では、活用形はテ形、タ形などと分類されていますが、日本語教授法の文法に関するクラスで広く使われている益岡・田窪の「基礎日本語文法」では、活用は「基本形語尾」「タ形語尾」の二種類に分けられています。

ほとんどの日本語教科書では、学校文法では重要だけれども、日本語学習者にとってはあまり必要と思われない区分に関しては、省く傾向があるように思います。日本語教科書で、「タ形語尾連用形」などと紹介されていることはほとんどなく、単純に「テ形」や「タラ形」としていることがほとんどです。というか、日本語教科書では、文法的な分類は非常に曖昧に書かれていることが多く、「テ形」は明確に定義していることはあっても、「タラ形」や「タ形」を活用としてはっきりと紹介していることは少ないように感じます。また、活用、助動詞、接辞などの分類に関しても非常に曖昧です。その曖昧さのおかげで日本語の先生も、敢えて「テ形」が「連用形」であるという紹介をする必要がないですし、使役も活用の一部として紹介しても全く論理上の齟齬がでなくてすむようになっています。例えば、日本語教育文法では、「助動詞」という品詞は全く紹介せずに、助動詞は全てを文型として紹介してしまうということも多いです。

日本語文法が直感的に理解できる日本語母語話者や、日本語を教える日本語教師にとっては、この複雑さや曖昧さは大した問題ではないですが、継承日本語を大きくなってから学習し直そうとする学習者にとっては、非常に複雑で、理解がしがたくなっています。日本語文法自体の難しさもあるのですが、どちらかというと、それよいりも、系統だった説明ができていないので、日本語文法は難しいという状況にあるのではないでしょうか。

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