「親と子をつなぐ継承語教育 日本・外国にルーツを持つ子ども」

親と子をつなぐ継承語教育


「親と子をつなぐ継承語教育 日本・外国にルーツを持つ子ども」という本が、ハワイ大学の近藤ブラウン妃美先生らの編集で2019年の9月に発行されています。海外で日本語を補習授業校などで学習している継承語の子供たちと、日本で日本語以外の言語を家庭言語として話している在留外国人の子女の継承語教育について、それぞれの分野の研究者が執筆した編集本です。四部構成で、最初の章は、言語学的な見地からの継承語についての解説、二章目は、心理、教育学的な見地からの解説、三章目が海外の継承日本語教育、最後の章が日本国内の日本語以外の継承語教育となっています。

それぞれの分野で研究実績のある人が、その分野について継承語の保護者など専門知識を持たない人向けに簡単に紹介していて、最後の方で研究の紹介(多くの場合は、執筆者自身の研究)を紹介し、さらに詳しくその分野について知りたい人のために推薦書が最後に書いてある形式です。それぞれのチャプターは10ページ程度とかなりコンパクトにまとまっています。

海外(特にニューヨークなど東海岸)の継承日本語に関して関係がありそうなのは以下の章です。

1章 バイリンガル・マルチリンガルの継承語習得(坂本光代)
2章 継承語習得と認知能力発達(田浦秀幸)
3章 家庭・学校・コミュニティにおける継承語話者の言語選択(坂本光代)
4章 日本語を優勢言語としない子どものバイリテラシー習得・発達(折山香弥)
6章 継承語学習のモチベーション/動機づけ(森美子)
7章 継承日本語とアイデンティティ形成(知念聖美)
8章 米国における学齢期の子どものための継承日本語学習の機会(片岡裕子)
9章 幼児や低学年児童対象の継承日本語教室で使う教材(山本絵美)
10章 北米の日本語学校における学習者のニーズの多様化(リー季里・ドーア根理子)
11章 外国語学習者と継承語学習者の混合日本語クラスでの指導(ダグラス昌子)
13章 海外における継承日本語学習者のための評価(近藤ブラウン妃美)

アメリカで継承日本語教育に関連した内容で取り扱われていたものとしては、「バイリンガル理論」「家庭言語方策」「バイリテラシー」「モチベーション/やる気」「アイデンティティ」「在外教育施設の種類」「『おひさま』などの幼児教育教材」「アメリカの高等教育機関での継承語教育」「継承語クラスでの評価方法について」などがありました。

非常に読みやすく、しかも引用文献などがしっかりまとまっていて、継承語研究に興味がある人にはとても有益な本だと感じました。継承日本語研究は比較的最近の研究分野なので、それぞれの章で、対象としている読者や継承語に対する定義が異なっているような感じがしました。たとえば、最初の方の章(1-3)は、バイリンガル教育の理論などが主に紹介されており、継承日本語教育に特化した内容はあまり記載されていません。それ以降の章では、比較的、継承日本語に特化した内容が紹介されています。中にはかなり詳しく研究紹介されている場合もありますが、ページ数の制約のためか結構簡単な紹介で終わっている章もありました。教育者や研究者の方でしたら、引用文献リストで紹介された研究について探して読むか、各章の最後にある推薦文献を読みたいと思うかもしれません。

あと、それぞれの著者の方の専門性のせいか、時折、異なった内容が書かれてあることもありました(例えば、家庭言語方針で、一人の人が一つだけの言語を話した方が継承語教育子女にとって有益であるかどうかなどは意見が異なるようです)。

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