永住組子女が週末学校で獲得できる継承語日本語能力

  • Nakajima, K. (2016). 海外日系児童生徒とバイリンガル教育. (Ch. 9). In バイリンガル教育の方法: 12歳までに親と教師ができること. (pp. 181-200). Tokyo, Japan: ALC.

日本と英語のバイリンガル教育で有名なトロント大学名誉教授/名古屋外国語大学の中島和子教授が書かれた「バイリンガル教育の方法」に同氏が1980年代にトロントの日本人補習校(土曜日学校)で行った(永住組)日系人子女のデータがあり、とても興味深かったので紹介しています。

データの対象はトロントで日本語学習を土曜日補習校で10年継続した日系人子女を10年間に渡り継続して調べたものです。対象者は、高校生(11年生と12年生)の31名で、調査されたのは、 以下の点です。

  1. 日本語の会話力(個人インタビュー)、読解力(小学4年生用標準テスト/トロント大の日本語テスト)、作文力(課題作文「子供時代の思い出」)
  2. 家庭での使用言語
  3. 子供の日本語補習校への態度

会話力に関しては、多少のアクセントや英語単語の使用が見られたものの、ネイティブと同様なレベルで20分以上いろいろな話題について会話がほぼ全員できたとのことです。他方、読解力は、小学4年生の標準テストが使用されたのですが、11年生(いわゆる高校2年生)は偏差値48.8、12年生(いわゆる高校3年生)が61.8だったのことで、年齢とあったレベルのものは読めない感じがありました。面白かったのは、トロント大の日本語クラス(日本語を大学から始めた学生用)のテストを実施したところ、100時間履修(1年目)のテストでは56%がパスして、200時間履修(2年目)のテストでは17%しかパスしなかったそうです。会話が優れているからといって、他の日本語能力が高いというわけではないというのがよく表れていると思います。作文に関しては、課題(「子供時代の思い出」)に対する作文が11年生で平均360字、12年生で平均444字の作文がかけたそうです。トロント大の日本語クラスの学生と比べると、総字数は継承語子女の方が長いものの、漢字の使用率などは、第二言語話者学生の方が多かったそうです。

家庭で使うことばに関しては、他のリサーチでも多く見られるように、保護者(父親と母親)とは日本語や日本語+英語で話す子女が多いですが、兄弟間になると英語で話す子女がほとんどだったそうです。

日本語週末補習校に対する態度としては、「好き」な子女は60%、「嫌い」な子女は13%、「どちらでもない」が27%で、「好き」な理由の多くが「友達がいるから」で、嫌いな理由が漢字、土曜日に学校に行くこと、でした。

同様なリサーチは、近年アメリカの継承日本語学校でも行われていますが、大体の結果は同じような感じだなぁと思いました。かなり環境が違うトロントで、1980年代にも日本語を継承語として獲得する子女は、同様な状況にあったのだなぁと思いました。

1 Comment

  1. はじめまして。トロント郊外に住む者です。3歳児を今年から近隣の日本語学校に通わせており、その縁で教室でのボランティアもしています。今後の息子の日本語学習をどのようにしていくべきかとつらつら思案しながら、こちらのブログへたどり着きました。こちらのポスト、すごく参考になりました。1980年代と今では、子供の学習の仕方や日本語のマテリアルへのアクセスのしやすさも段違いになりました。それに伴って、新しい世代はもっとハードルなく日本語を継承してもらえたらなぁ、なんて思っています。またじっくりと読ませて頂いて、参考にさせて頂きます!。

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